『SUMMERDELICS』をGLAYのメンバーと共に作り上げたプロデューサー・亀田誠治氏は、「ロックの新しい扉を開けた一枚」と、同アルバムをGLAYにとってもロックシーンにとっても非常に重要な位置づけになると絶賛した。そんな亀田氏に、アルバム完成までの、4人との濃密な時間を振り返ってもらい、作品について、改めてGLAYというバンド、そしてメンバー一人ひとりについて語ってもらった。
2017.5.22
亀田さん(※1)とGLAYのタッグがスタートしたのは2013年のシングル曲「DARK RIVER(※2)」からですよね。
- 亀田
- そうです。TAKURO君から電話があって。それまでGLAYには佐久間正英さん(※3)という素晴らしいプロデューサーがついていらっしゃって、僕も一音楽ファンとして、GLAYのことをずっと注目していました。僕は1988年頃から音楽の仕事を始めて、GLAYが94年にデビューして、90年代後半に大ヒットを飛ばして、このバンドは一体……と僕の中でバンドの概念を破ってくれました。バンドなのにしっかりとしたメロディと歌詞がきちんと存在して、そしてメンバー全員にカリスマ性があって。ボーカルのTERU君とソングライターのTAKURO君は、例えていうならビートルズのジョン・レノン&ポール・マッカートニー(※4)、U2のボノとエッジ(※5)、BOØWYの氷室さんと布袋さん(※6)、それくらいの強い2TOP感があって、何十年かに1組出てくる超大型アーティストというイメージでした。
いつかは一緒にやりたいなとずっと思っていました?
- 亀田
- またえげつないこと聞きますね(笑)。いつか一緒にできるといいなと思っていましたね。
クリエイティブ魂がそそられるというか、煽られるとういうか、そういう感じですか?
- 亀田
- いつか一緒にやりたいと思う気持ちって、やっぱり僕らの仕事にはすごく必要で、ここから相思相愛が始まるんですね。僕は下は10代、上は60代くらいまで色々なジャンルの色々なアーティストを手掛けていますが、やっぱり基本にあるのは相思相愛の関係なんです。それは飲みに行って仲良くなったからとか、そういう事ではなく、お互いの作品やパフォーマンスを見て、純粋に音楽から共有できるリスペクト、相思相愛の気持ちから始まっているというのがポイントです。なので、この人と仕事がしたいと思った時は、営業をかけるのではなく、まずは念力をかける。いつか一緒にやりたいなって。そういう強い思いを持っていると、僕の場合は必ずつながります。
TAKUROさんから初めて連絡を貰った時のことは覚えていますか?
- 亀田
- 覚えています。その2年くらい前の「ap bank fes(※7)」でご一緒して。その時にホテルで、ミスチルのJEN(※8)の部屋でみんなで飲みました。みんなむちゃくちゃ酔っ払っていて、その時にTAKURO君かTERU君どちらかが「亀田さんもいつかGLAYのプロデュースしてくださいよ」と言ってくれて。その時に僕が返した言葉というのは……
伝説になっている「いい曲書いてきたらやってやるよ」って言ったという話ですよね(笑)。
- 亀田
- そう。僕はそんなことはひと言も言ってなくて(笑)、一緒にできる曲があったら、是非やりましょう、という感じで全然上からではなくて。僕とGLAYのバイブスが合う曲があったら、きっといつかはそういうチャンスが来ると思うって言ったのに「まずはいい曲持って来いよ」って僕が言ったという話が広がって(笑)。そんな事絶対言ってないのに(笑)。
亀田さんはそういう事を言いそうにないです(笑)。
- 亀田
- 僕本当にそういう人じゃないですから(笑)。その後しばらくしてTAKURO君から電話をいただいたという感じです。なので初対面というわけでもなかったし、とにかく僕はGLAYの活躍をずっとリスペクトしていたし、GLAYのメンバーも僕のプロデュースワークを外から見ていてくれていました。
まずはシングル「DARK RIVER」で一緒にやって、その後オリジナルアルバム『MUSIC LIFE(※9)』(2014年)で再びガップリ四つに組んで制作しました。
- 亀田
- 実際に一緒に現場に入って、まずは人に惚れました。人に惚れるというのは、普通僕らは何枚か一緒に作って時間を重ねていく中で、惚れていくものですが、GLAYの場合はもうメンバーとの顔合わせの時に、それぞれの人柄と、4人の絆に感動しました。こんなに人と人がお互い尊重し合って、しかもなあなあではなくて、そんなバンド他にいないと僕は色々な人によく言っています。これが90年代、2000年代の日本の音楽シーンを支えて牽引してきたトップバンドの素顔なんだなと改めて感動して、4人のためなら自分が持ってるもの、全ての経験、スキル、ネットワークを使って、彼らの音楽を次の世代、時代に残していきたいと「DARK RIVER」の時に思いました。曲の素晴らしさはもちろん、僕がアーティストと接していく中での出会いの時のスパークの大きさといったら、もうこんな出会いはなかなかないという手応えでした。人柄もそうですが、4人から出ているエネルギー、熱量がすごいと思う。普通バンドが、全員エネルギーを発し合うと、それがぶつかり合っておかしなことになったりするのに、GLAYの場合はそれがちゃんとひとつの方向に走り出して、本当に4つの車輪で、それが綺麗に回っていて。
『MUSIC LIFE』の発売イベントで、亀田さんとメンバーが登壇して「最高傑作ができました」とおっしゃっていました。今回の『SUMMERDELICS(※10)』を聴くと、“最高”をまた更新したような仕上がりです。
- 亀田
- もちろん最高傑作が完成しました。僕らは前の作品を超えるために音楽を作っています。その超えるという事がGLAYの場合は、自分たちの基準を超えるということなんです。人からの評価、数字だけでなく、その前にまず自分たちがこれは面白い、これはすごい、これは良い曲、新しいGLAYになれているのか、懐かしいGLAYをちゃんと見つめているのか、色々な基準があると思いますが、その自分たち超えという感覚を、メンバーと僕、スタッフのみなさんと共有できているということが、すごく大きいと思います。僕も自分超えをしたということだと思います。
外からの評価基準よりも、ある意味遥かに厳しい自分達の基準を、毎回超えているからこそ、20年以上トップランナーとして走り続ける事ができているんですね。
- 亀田
- 一人一人の自分超えということでいうと、もちろん曲や歌詞を書く事で自分を超えるという事も大切ですが、4人はミュージシャンとして本当に一人一人が自分に厳しい基準で音楽に向かっていると思います。例えばベースのJIRO君は、必ずプリプロまでに自分のベースラインを固めてきますし、ギターのHISASHI君はみんなで音を出すときは、サラッと弾く感じなのに、2,3日経った頃、家でカッチリ作り込んだ音のデータを送ってきてくれたり。「俺は究極のニートギタリストだ」とか言いながら、きちんと送ってきて(笑)。TERU君は、今回のアルバムから本歌を歌う前に、家のスタジオで自分の歌を一回シュミレートしてくるようになって。で、「亀田さんこういう歌い方でいいかな?」とか相談してきてくれて。TAKURO君も前回はこうしたから、今回はこうしたいとハッキリとした意見を言ってくれて。TAKURO君は並行して自分のソロプロジェクトをやっていたので、そこで掴んだ何かがあると、「あの曲のギターソロだけもう一回やりたい」と、自分のジャズプロジェクトをやっていく中で面白いことをやってみたい、実験したいという思いが出てきたみたいで。メンバーそれぞれが定点にとどまっていないというか。それぞれが次の自分を目指しているので、だからGLAYは年を取らないんですよ。逆に若返っています。本当に真摯に音楽に向き合っていて、かといってただの音楽バカではなく、ちゃんと自分の時間も大切にしています。人生が注ぎ込まれてスケールアップしていく、そこがGLAYの知られざる魅力だと思います。
亀田さんはありとあらゆるアーティストを手がけていらっしゃいますが、プロデュースするうえで、一番大切にしている事はなんですか?
- 亀田
- 音楽第一主義、アーティスト第一主義という事はずっと貫いていますが、一番大切にしているのはアーティストが100人いたら100通りのやり方でやらないと、いい作品はできないという事です。僕は例えばバンドものだとGLAYと並行してスピッツもやっていますが、スピッツでうまくいったことをGLAYでやろうとしても、絶対うまくいきません。その逆も然りで、それはバンドといっても人の集まり、個の集合体だから。それぞれの人の集合体に対して、僕はさらに1対1の関係で作っていかなければ、いいものはでき上がってこないと思っているので、そこだけは肝に銘じています。
TAKUROさんが「亀田さんが心地よく仕事をさせてくれるので、毎日早くスタジオに行きたかった」と言っていました。
- 亀田
- 真剣にやる必要はありますが、煮詰まる必要はないですからね。険悪になる必要もないし。ひとつひとつを認めてあげたいし、認めた上でここがダメ、うまくいかないねということで納得すれば次に進めるという事を、瞬間瞬間を判断していくのが僕の仕事だと思っていて。それには厳しい口調になる必要もないですし、和気あいあいとした中でも進められることなんです。
今回の『SUMMERDELICS』も、メンバーが作った曲を全部亀田さんに渡して、亀田さんにチョイスしてもらったとおっしゃっていましたが、『MUSIC LIFE』の時と今回のレコーディングとでは、2枚目という事で、雰囲気は大分違っていましたか?
- 亀田
- レコーディングの雰囲気は最高でした。『MUSIC LIFE』を作って、「GLAY EXPO 2014 TOHOKU 20th Anniversary(※11)」も観に行かせてもらって、飲み交わした酒の量もありますし(笑)、そういった意味では僕とメンバーと、エンジニアの工藤(雅史)さんも含めて共同制作者という感じでやっていますが、みんなの距離感がいい意味で近づいていると思います。でもそれは決してなあなあになったという事ではなく、距離が近づいた部分だけ、より厳しくなった部分もありますし、コミュニケーションスピードが上がって、雰囲気はどんどんよくなっています。
制作期間はどれくらいかかったのでしょうか?
- 亀田
- 去年の6~7月くらいに、全員の曲が集まって、それをいただいて、夏頃からちょくちょく作業をやり始めました。なので制作期間でいうと約1年ですが、その間にシングルもあったので、それを入れると2年くらいかかった事になります。
『SUMMERDELICS』はメンバー全員が作品を手がけ、それぞれの個性が溢れ出ていますが、それぞれの作品に対する亀田さんの評価を聞かせていただけますでしょうか。まず今回はなんといっても「シン・ゾンビ」他、HISASHIさんの曲に注目が集まっていますが。
- 亀田
- HISASHI君は自分の事を「ニートギタリスト」と言っていますが、やっぱりロックミュージックを非常にグラマラスな形でデジタルに変換するんですよね。
HISASHIさん、ネットシーンでもヒーローです。
- 亀田
- それは音楽上だけでやっていないというのがHISASHI君の強みだと思います。メディアの使い方も関わってくるので、なんと言えばいいんですかね、このカテゴリーを。オタクでもないし……。
ハイパーメディアアーティスト?とかですかね。でもそう名乗っている人、他にいましたよね(笑)。
- 亀田
- 確かにハイパーメディアの領域に入ってきていますね。ネットから発信されたボカロ的なものや、ダンスミュージック的ものにHISASHI君は、そのグラマラスなロックのスパイスをかけて全部をひとつにしました。そこをさらにグラマラスにというか、ロックで体現できるのがTERU君というボーカリストです。だからHISASHI君は筆が進むのだと思います、このGLAYの現場では。普通だったらここはアニソン的な女性ボーカルやボカロ的な声が乗ってきたほうが親和性が高いところに、うちにはTERUという看板ボーカルがいて、彼を躍らせることができるというのを、確信犯で作っていると思います。だから「微熱Ⓐgirlサマー」のような遊びもできるし、「シン・ゾンビ」なんて、CDショップの試聴機で聴いた人は、誰もGLAYだと思わないと思う。
それはTAKUROさんもおっしゃっていました。
- 亀田
- 今までのGLAYを知っている人はびっくりするかもしれませんが、今回のアルバムを作るにあたってTAKURO君が言っていたのは、GLAYはキャリア20年を超えて、僕らももう45歳で、でも自分達が本気で楽しんでいる姿をみんなに見てもらいたい、というところから今回は始まっています。もちろんメンバーとTAKURO君はじっくり話をしていると思いますが、僕とTAKURO君でもこの話はよくしていて。HISASHI楽曲を次のシングルにしたいとか、そういう話もどんどん出てきていて、大人、45歳の俺たちが本気で楽しめるのは何かということを追求したいと。例えば「「XYZ」は俺達の得意な感じの曲ですぐできちゃう。でもね亀田さん「シン・ゾンビ」は演るの大変だよ。でも俺たちはこの曲をテレビで歌いたい」とTAKURO君は言っていて。この覚悟は並々ならぬものだと思います。例えば欧米のバンドも転換期ではそういう思い切ったことをやっていて、GLAYは常に挑戦しているバンドですが、今回のアルバムは本当に次へ飛ぶために、全速力で滑走路を走り、空を飛ぶ立つ瞬間のものだと思います。言ってみればこのために『MUSIC LIFE』もあったし、それ以前に本当に素晴らしい音楽を残してきていますが、僕と作った『MUSIC LIFE』は、エンジンを回して、滑走路を走り始めた段階のもので、今回の作品ではまさに飛ぶ瞬間のもので、この先にあるものを見てくれという意志表示の作品、これが『SUMMERDELICS』だと思います。
オープニングナンバーがHISASHIさんの新曲という、ものすごいインパクトです。
- 亀田
- インパクトどころじゃない気がします(笑)。大変なことだと思います(笑)。
TERUさんも「手こずった」と言っていました。
- 亀田
- 大変だけど、やっていて楽しい挑戦をやりたいという事は強調していました。
覚悟が違うんでしょうね。
- 亀田
- 僕はプロデュースする時に必ずメンバーと一緒にプリプロをするか、一緒にスタジオに入るか、もしくはみんなとスタジオに入る前に、僕がこういうアレンジはどう?というデモテープを作るんです。TAKURO君がある日「亀田さんのアレンジは最高です。本当にロックしているしキャッチ―だし、大好きだけど、この頃メンバーが亀田さんのアレンジを『MUSIC LIFE』を経て、ちょっとなぞり始めている」と言ってきて。「なぞることは悪くないけれど、僕はそのムードを一回取り払いたいので、一緒にゼロからスタジオで作ってみたい」と言ってきてくれて、彼は正真正銘のリーダーですよね。逆にいうと「シン・ゾンビ」のようなアプローチは、あの元になっている「彼女はゾンビ」という曲には僕もかなり関わっていますが、HISASHI君がキャンバスに塗り替えたというか、設計図を書き替えた、構築し直した作品で、そういう一人一人のクリエイティビティを尊重して、TAKURO君は滑走路を飛び立つための準備というか、オイルの補給みたいなことを、今回やっていたと思います。
素晴らしいリーダーであり、プロデューサーですよね。
- 亀田
- 本当にプロデューサーです。僕とTAKURO君は基本的にはface to faceのコミュニケーションが好きなので、たいてい会って話すか、電話ですが、LINEも駆使して、その会話の量、時間たるや相当なものですよ。
HISASHIさんの新曲、「微熱Ⓐgirlサマー」だけでなく、「デストピア」「超音速デスティニー」(※12)と本当に色々な表情の曲を書いています。
- 亀田
- 陰と陽の使い分けも上手ですよね。サウンドの中にいわゆるデスメタルのような暗黒の要素も入れてくるし、能天気な要素も入れてくるし、やっぱりHISASHI君はパソコンと向き合うことによって、本当にたくさんのカードを手に入れて、持っている状態だと思います。多分、今自分でやっている活動が楽しくて仕方ないんだと思います。
ギタリストとして、プレイヤーとしてのHISASHIさんの亀田さん評を教えて下さい。
- 亀田
- 天才です。フレーズの方向、なんでこんなアプローチができるのだろうと感心しています。そして基礎的なプレイはもちろんうまいのですが、それに対してコンピュータを使った現代の音作りに対して非常にオープンなので、聴いた事もないようなフレーズや音が飛び出してくる。普通こんな音にいかないだろうというフレーズが出てくる。今回はどの曲もそうです。一方でGLAYの中での伝統的なHISASHIサウンドのようなものがあったり、いわゆるヘビーメタル、ビジュアル系のツボも押さえたギターなので、ギタリストが憧れてしまうようなプレイもできるという。
二人の全く色が違うギターの存在がGLAYの武器でもありますよね。
- 亀田
- HISASHI君とTAKURO君のアプローチが全く違って、その曲のレコーディングで、どっちが先に弾くかによって勝敗が決まるようなところがあって(笑)。TAKURO君が「HISASHIこうきちゃいましたよ。俺はどう弾けばいいでしょうね」とか、よくスタジオで話しています。2人がお互いの音を聴きながら、GLAYのサウンドってコードネームでは表せないような、耳から判断していくものなので、ギターとギターのコラボを聴いていると、面白いサウンドになっています。
ソロツアーを経てのTAKUROさんのプレイはいかがでしたか?
- 亀田
- ソロツアーが始まる前にTAKURO君とB’zの松本(孝弘)さんと3人で食事をする機会があって、その時に松本さんという大先輩から色々アドバイスというか、優しい訓示というか、甘いダメだしみたいなのをTAKURO君はもらって(笑)。TAKURO君と松本さんの間には師弟関係のようなものが見えて、影響も受けていると思います。例えばHISASHI君がデジタル大歓迎というプレイヤーだとしたら、TAKURO君は本当に59年型レスポールの音や、マーシャルのヘッドアンプにこだわったり、楽器の生音、タッチ、そしてひずみの香ばしさとか、そういうプレーンなスタイル、自分の体、指とギターとで出す音にこだわったプレイで勝負してくる。しかも今回は全部が生音の楽器、シンクとかない環境の中でレコーディングをし、ジャズスタイルのライブツアーをやって、それを経て、より“音は人なり”という部分を大事にしている感じが強くなってきたと思います。そういう意味で僕が言うのもおこがましいのですが、表現力という意味でTAKURO君のギターが上手くなってきていて、元々うまいのに表現力の幅がとにかく広がってきてます。本人もそこを大事にしようとしていて、ロックは勢いとかパワーとか、そういったものを超越したところに今きている気がします。
Mr.GLAY、TAKUROさんが手がけた今回の作品の中で、亀田さん的に注目している作品はどれですか?
- 亀田
- 例えば「聖者のいない町」には、僕とTAKURO君の共通言語がたくさん入っています。ある意味ビートルズの組曲的なアプローチで、そういう古き良きロックをこの2017年に変換していったらどうなるんだろうというアプローチです。ウイングスの「007死ぬのは奴らだ(※13)」(1973年)のようなオーケストレーションで、これまでには考えられないような迫力にしてほしいとTAKURO君からリクエストがありました。
曲頭がシンプルなので、迫力をより感じますし、メリハリがすごくカッコいいですよね。
- 亀田
- 「ジョージ・マーティンならぬ、亀田マーティンになって」と、わかりやすい指示がTAKURO君からあって(笑)。「SUMMERDELICS」は、1970年にカナダで行われた、ジャニス・ジョプリンやグレイトフル・デッドらが、列車に乗ってカナダ各地でライヴをやる「フェスティバル・エクスプレス」というフェスがあって、そのドキュメント映画があるのでそれ観て欲しいとTAKURO君に言われて。列車の中でミュージシャンは酒やドラッグに浸りながら音楽をとことん楽しむという内容で、そういう音楽旅団的なストーリーの曲にしたいよねと。今回のアルバムは遊び心、40代になった彼らが持つ遊び心という意味では、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(1967年)のようなストーリー性があってもいいよねという話をしました。「ロングラン」は典型的なTAKUROメロディで、言葉数が多くて、最初はTERU君がブルーになっていました(笑)。この曲は、ある程度素材はあったのですが、面白い作り方をしました。みんなが帰った後、TAKURO君だけが残って、僕も残って、TAKURO君がギターをつま弾きながら、鼻歌でサビを作ったりするので僕も一緒に聴いていて、ここはこうしたほうがいいねという話をしながら、一曲デモを作ったりして。そうやってできあがったのが「ロングラン」です。「XYZ」も音を流しながらみんなでメロディを作っていったり。やっぱりTAKURO君の許容力の広さはすごいです。こういうメロディでも気持ちよければいいじゃん、という感じでした。
スタジオ中でのメンバーの役割分担のようなものがあるとお聞きしたのですが、メンバーはJIROさんの意見にはみんな一目置いているとおっしゃっていました。
- 亀田
- JIRO君はやっぱりベーシストというか、客観的なんですよね。客観的かつピュアなミュージシャン目線で、TAKURO君はどこか総合プロデューサー的目線。TERU君は何でも直観で言ってしまうタイプ。スーパー感覚派です。でもそこがいいところなんです。JIRO君は、ここはこういう音のほうが気持ちいいんじゃないかということとかを、しっかり言葉にして説明してくれたり、2番のここではパターンを変えたほうがいいんじゃないかとか、具体的かつ的確なんです。全体を見渡せている感じです。JIRO君もスタジオ入る前に必ず、自分はこういうベースラインにしたいというスケッチを送ってくれます。もしこれがOKなら、プリプロの時OKテイクを出しますと、そういう気迫で臨んできてくれました。だからGLAYのレコーディングがオンタイムで進むのは、本当にJIRO君のベースが一番最初に仕上がっているからだと思います。あのベースがあるからこそ、TAKURO君もHISASHI君も自由に泳げるし、ドラムとベースが先に完成してるので、先が見通せるんです。後からここは差し替えたいとも言わないし、本当に潔ぎいいプレイヤーです。
ソングライターとしてのJIROさんは、ご自身でコード3つくらいで曲を作っているとおっしゃっていましたが、メロディが豊かですよね。
- 亀田
- シンプルだけど豊かで、どこかUKっぽい。いい意味で、日照時間が短い感じ。僕は大好きなんですよ、カリフォルニアの日差しとは真逆のあの感じが。僕もアレンジというか、サウンドメイキングしている時に燃えるし、どこまででも深い世界を表現していけたり、逆に典型的なUKのロックや、いわゆるロッククラシックから何かを引用してきても親和性があるというか。素晴らしいソングライターです。シンプルな分だけ、いい意味で歌謡性がなくて、洋楽のメロディに近い。歌謡メロはTERU君、TAKURO君、HISASHI君も書けるので、本当にJIRO君の曲はいいスパイスになります。JIRO君の曲が並ぶと本当に威力があります。一曲だけポンッと入るとスパイスという感じになりますが、2曲並ぶとそのアルバムのカラーを決定づけるような、それくらい曲に発言力があるというか。
プレイヤーとしてのJIROさんはいかがですか?
- 亀田
- 本当にうまい。多分いい意味で僕と対決しにきてくれているというか。アイディアを提供しますが、僕もJIRO君のプレイに感化されるところがあるし。とにかく考えて作るベースです。ベースだからルートがいいというわけではなくて、ルートがいいという場合はルートしか弾かないし、歌ったほうがいい時はとことん歌うベースです。
今回はどの曲も本当にベースの音が気持ちいいですよね。
- 亀田
- ピッキングが佐久間さん仕込みで、上手で。ピッキング教えてとJIRO君に言っていて。JIRO君が弾くと、音がすごくきれいに粒が揃っていい感じになって、どうやって弾いてるのか教えてといつも言っていました。JIRO君が薄いピックを使っていると聞いて、僕も厚さ変えました。JIRO君からかなり影響を受けています。
直観力が豊かなTERUさんのソングライターとして、そして改めてボーカリストとしての魅力を教えて下さい。
- 亀田
- ソングライティングという部分では、TERU君曰く「BLEEZE」(2014年)(※14)」が書けたことで何か掴めたと。自分の役割がわかったというようなことを言っていました。TERU君の書くメロディはすごく特徴あります。
風景が見えてきますよね。
- 亀田
- そうなんです。TAKURO君が書くメロディも日本の原風景が見えてきて、TERU君の曲もそう。
どこか“情緒”を感じます。
- 亀田
- そうなんですよ。「空が青空であるために」もそうだけど、明るいメロディにも関わらず、何か侘びさびが見えてくるというか。それと、やっぱりボーカリストが作る曲は、自分の声の使いどころをよくわかっています。しかもTERU君は本当にファルセット、ミックス、ミドル、色々な声を使い分けることができていて、最高のスキルを持ったボーカリストです。その自分のボーカルの声のトーンを使いながら、メロディをどう表現すればいいのかというのを、他の人の曲でもそれは応用してやっていますが、自分の曲の場合は、曲を作る時からそれができていると思います。そういった意味でTERU君はある意味シンガー・ソングライター的な存在で、TAKURO君はやっぱり真のソングライターなんですよね。TERU君の場合は、そこに自分の素晴らしいボーカルという発信源が見えているので、そこを踏まえて書かれているメロディは、一筆書きでいける良さがある。それは自分の意志で作っているから。
直観というところと繋がってきます。
- 亀田
- 繋がりますね。一筆書きのメロディですね。
今回はいつにも増して色々なタイプの曲を、TERUさんはまさに“歌い切っている”という感じです。
- 亀田
- ボーカルに対しては非常に真面目で、レコーディングも6~7テイクで、絶対に1時間であげてくれます。1時に始まって、コーラスまで入れて6時には必ず終わります。例えばHISASHI君の曲を歌う時は、言葉のはまり方で手こずったりして、6時半ころまでかかってしまう事もありましたが、そうすると「あー今日は残業しちゃった。HISASHI、残業代」って言っていました(笑)。僕はTERU君と一緒にいて、話をしているだけで幸せな気持ちになるし、歌入れが楽しいです。彼の歌を録っていると、自分が浄化されるのがわかります。決して癒し系のソフトな歌ではないのですが、でも彼の歌と向き合うことによって、僕自身が浄化されます。素晴らしいボーカリストはそういうものです。そのかわり、例えばTERU君の歌を1日1時間で1曲歌えるからといって、2曲録れと言われたら無理です。浄化されますが、僕もエネルギーを相当使っているので。
エネルギーとエネルギーの果し合いのような感じですね。
- 亀田
- 本当にそうです。歌のセレクトも全部任せてくれますし、もちろん自分で聴いて、ここはほかのテイクがないかという場合もありますが、完全に信頼してくれていますので、非常にやりやすいです。
全曲通して聴いてみて、非常に新鮮で、GLAYの底力を見せつけられましたが、このアルバムをひと言で表すとしたら、どんなアルバムだと言えますか?
- 亀田
- 次の時代の扉を開くアルバムじゃないですかね。レコーディングテクニック的にも最新の技術が注ぎ込まれています。次の扉というのはGLAYのという意味だけではなくて。あえていうなら、ロックの新しい扉といいたい。そうか、ロックの扉を開くのかって聴いてみるといきなり「♪ゾンビの達人」(「シン・ゾンビ」)って始まりますけどね(笑)。そこがGLAYなんです。GLAYのLがRじゃないところです。その精神を感じながら、いつも僕はやっています。「SUMMERDELICS」という名のGLAYジェットが今、飛び立ちます。
- ※1:亀田さん
- ベーシスト・アレンジャー・音楽プロデューサーの亀田誠治。1964年6月3日、ニューヨーク生まれ。椎名林檎・スピッツ・平井堅など、数多くのプロデュース・アレンジで知られる。
- ※2:DARK RIVER
- 2013年7月24日発売48thシングル「DARK RIVER/Eternally/時計」表題曲
- ※3:佐久間正英
- ロックバンド、四人囃子の元メンバーで、プロデューサーとしてBOØWYやザ・ブルーハーツ、GLAY、JUDY AND MARYらを手がけた。
- ※4:ビートルズのジョン・レノン&ポール・マッカートニー
- ジョン・レノン、ポール・マッカートニーがメンバーのザ・ビートルズ (The Beatles) はイギリス・リヴァプール出身のロックバンド。
- ※5:U2のボノとエッジ
- U2とは、アイルランド・ダブリンで結成された4人組ロック・バンド。ボノ(Bono)はボーカル、ジ・エッジ(The Edge)は主にギターを担当する。
- ※6:BOØWYの氷室さんと布袋
- BOØWY(ボウイ)は、日本のロックバンド。1980年代に活躍。1981年結成、1988年解散。氷室京介:ボーカル、布袋寅泰:ギター・コーラス
- ※7:ap bank fes
- 静岡県掛川市のつま恋多目的広場で開催された野外フェスティバル。GLAYはap bank fes '08に出演
- ※8:ミスチルのJEN
- 日本のバンド・Mr.Childrenのドラマー鈴木 英哉の愛称
- ※9:MUSIC LIFE
- 2014年11月5日に発売された13thアルバムのタイトル
- ※10:SUMMERDELICS
- 発売予定の14thアルバムのタイトル
- ※11:GLAY EXPO 2014 TOHOKU 20th Anniversary
- 東北史上最多となる55000人を動員し10年振りに開催されたGLAY EXPO 2014 TOHOKU。
- ※12:「デストピア」「超音速デスティニー」
- 2016年8月3日発売54thシングル「DEATHTOPIA」収録楽曲
- ※13:ウイングスの「007死ぬのは奴らだ」(1973年)
- 元ビートルズのポール・マッカートニーを中心に構成されたロックバンド。ウイングスが発表した楽曲。映画『007 死ぬのは奴らだ』の主題歌
- ※14:「BLEEZE」(2014年)
- 2014年7月9日発売GLAY 20th Anniversary 50thシングル「BLEEZE」表題曲