GLAY

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INTERVIEW

Vol.105 HISASHI インタビュー

全7曲入の新作E.P『HC 2023 episode 2 -GHOST TRACK E.P-』。このなかにはHISASHI作詞作曲の「Pianista」が収録されている。アレンジにサクライケンタを迎えたこの曲はどのようにして生まれたのか。今回のHISASHIへのインタビューは、この「Pianista」を中心に、「GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost of GLAY-」の感想や、ミュージシャンとして重ねてきた29年間という歳月の体感、楽曲への愛情、ギタリストとしてのプライドなどについて話を聞いた。常に進化と変化を見据えるHISASHI。そのキャラクターの輪郭が改めて鮮明に描き出されるテキストとなった。終盤で触れているツアー千秋楽でのトリッキーな一幕も含めて、ぜひとも楽しんでいただきたい。

2023.10.2

まずは「GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2023 -The Ghost of GLAY-」を終えての感想からいただけますか。
HISASHI

やっぱりコンサートというのはお客さんのものなんだなという事実を改めて思い知りましたね。僕らにとっては30分の1本でも、コロナ、いろんな我慢を強いられていた皆さんには、非日常だし、ワン・オブ・ワンですからね。長くやっているとつい忘れかけちゃうときもあるけど、それを今回は本当に毎回確かめていました。

最近、あまり“熱狂”とか、縁遠いじゃないですか。ちょっとクールな時代だし。でも今回のツアーはみなさんの表情が本当に熱を帯びていた。ツアー前半は特にそれを強く感じさせられましたね。それでいてみなさんマナーを守りつつ、協力し合って、真面目に参加してくれていて。繊細な時期のライブが破綻しないように、各々のお客さんがマナーを築き上げてくれていたし、お客さんが「育ってくれた」という思いもあって。あの、GLAYって初期の曲でもやるじゃないですか?

たしかにそうですね。
HISASHI

僕、以前、THE MAD CAPSULE MARKETSのメンバーに「初期の曲を聴きたい!」って直談判したことがあって(笑)。アーティストによっては古い曲とか初期の頃の曲を敬遠しがちな人もいると思うんですが、僕がファンなら聴きたいし、GLAYは積極的にやる姿勢です。それは不変のメロディを目指しているという一方で、曲に時代が見え隠れするような魅力も尊重しているから。どの曲も風化させず、常に新しい風を出来るだけ満遍なく通しておきたい。すると武井咲ちゃんみたいに「お母さんが聴いていた影響で」と聴いてくれる人も現れるし。「THE GHOST」というコンセプトはそういう機能も担っていると思うんです。

今回のツアー生活はどうでしたか?
HISASHI

今回は堰を切ったように打ち上げも地方も楽しめたし、各地方の街も少し明かりを取り戻したような気がしました。そういう楽しさも全て、スタッフにもお客さんにも伝わればいいなと思いましたね。会いたかった地方の友達に会えたり、移動中にみんなで映画を観たり、小さいことかもしれないけどツアーの醍醐味を久々に感じることができましたね。

いま振り返って、コロナ禍の自粛期間や思うように活動できなかった期間はどのような時間でしたか?
HISASHI

バンドを30年もやっているとそりゃいろんなことがあったけど、「まさかこんな風に止まるとは」という時間でした。でも前向きに捉えれば、一度立ち止まって後ろを振り返る時間になった。さっきお話したようなライブについてのことを改めて考え直し、音楽の幅についても考えられた。コロナ禍、DJ Massくんだったり、ヨウイチロウくん、そして今回のサクライケンタくんとさまざまな外部のかたとご一緒出来たことも新たな可能性に繋がったし。多分、一度止まらなかったら今まで通りにやっていた部分も大きかったと思う。僕は普通に数十年やってきたけど、メンバー各々がディスプレイに張り付いて制作したり、リモート環境を構築していったことも、GLAYにとってはかなりプラスになったと思います。

マイナスをプラスに変え、ピンチをチャンスに変えるのもGLAYらしさというか。
HISASHI

もうそこは昔からの癖みたいなものなんだけど、GLAYは無茶もするけど、一方で常に最悪の事態も想定してきたから。コロナの影響でドーム級のライブを3本飛ばしてもマネジメントは何とか持ち堪えたし。石橋を「そんなに叩くか?」ってぐらい叩く。ロックンロール1本じゃなくて、みんな家族もいるし、スタッフもいるし。ロック=養うが大前提という現実的な部分がやっぱりありますから。むしろCDだ配信だと29年も日本の音楽ビジネスに携わってきたんだから、ここから何がどういう更に変化していくのか楽しみというか、見届けてやろうという気持ちになってますよ(笑)。ただ、活動を人頼りにせず、誰かのせいにもしたくない。自分から時代に抗う気持ちは常に持っていたい。それが俺の憧れるバンドマン像でもあるし。だからGLAYも常にスタイリッシュというかスマートな佇まいで在りたいという願望はありますね。

コロナ禍以前も、前の事務所から独立したこととか、東日本大震災とか、いろんなことがあったけど、常に「僕らが出来ること」を考え続け、やり続けるしかなかった。「GLAYはやり続けるんだ」という姿勢を、音楽とメッセージに込めるしかなかった。すごく不器用だけど、やっぱり僕らにはそれしかないんだということにコロナ禍も気付かされました。まあ2000年以降はすごく自由に音楽を作れる環境にあったし、90年代の異常なスケジュールに忙殺されていた頃のキツさと比べたら、大抵のことは乗り越えられるという気持ちもあるし。

さて、今回のE.Pですが、これはHISASHIさん曲の「Pianista」にも繋がるんですが、今作は全体的に蜃気楼のように消え去ったもの、失くしたものを見つめるような視点が通底しているように感じられました。先日インタビューしたTAKUROさんからは「偶然だった」というお話がありましたが。
HISASHI

GLAYってそういうことが多いんですよ。全部の点が線で繋がって、自分らでも驚くぐらい「こことここが繋がるのか!」とか「これと過去のあれはここで繋がるんだ?」みたいなことが本当にたくさんある。今回もGLAYらしくみんな好き勝手に作っただけなのに(笑)。

「Pianista」では、サクライケンタさんとコラボされていますね。
HISASHI

BiSきっかけでMaison book girl(※サクライケンタが制作を手掛けたアイドルグループ。BiSのコショージメグミが参加)を好きになって、それがきっかけでサクライくんを知って。何か一緒にやりたいと思っていて、オンライン上ではずっと繋がっていたんだけど、『ブラッククローバー』というモバイルプロジェクトのお話があって、今回ようやく実現しました。

GLAYって僕がきっかけで出会わないと、例えばTAKUROは一生触れないだろうな、みたいな人が結構いて。僕はアイドルの曲を聴いて、「ここからGLAYへの繋げ方もあるよな?」と考えるのが好きなんです。常に正攻法ではないギミックを求めるというかね。「限界突破」のヨウイチロウくんもそうだったし。古くはピエール中野くんとか、とにかくGLAYに新しい要素をぶつけて、その化学反応を確かめたいという感覚が僕にはずっとあって。仮にGLAYの王道があるとしたら、それをちょっと横道に逸らせてほしいというか、何なら壊しに来てほしい。そこはメンバー全員が思っているはずだし、一方でそれぐらいじゃGLAYは絶対に壊れないという自信もあるから言えるんですが。

むしろベテランの方々って、どちらかというと心のなかでは「新しいことはしたいけど今更変わりたくもない」と思っているかたの方が多いんじゃないかな?という気も何となくするんですけど、GLAYは真逆というか。
HISASHI

僕は常に新しいことにチャレンジしてきたU2先輩にカッコよさを感じてきたので。そこは後輩のバンドでも同じですね。年齢とかキャリアに関係なく、常にカッコいいことをやっている人を見ると嬉しい反面、悔しいとも感じるし。そこはずっと「負けたくない」と思っていますね。

GLAYはいま全員50代ですが、年齢についてはどう捉えていますか?
HISASHI

僕らの活動って、曲作りから始まって、次にスタジオワークして、レコーディングして、PRやって、MVとか撮って、リハやって、ライヴやって、ツアーやってという流れがあるじゃないですか。それって2年、場合によっては3年とかの期間に及ぶでしょ? 僕の場合は年齢というよりもその流れで数えているんですよね。その間、気持ちをずっと保っておかなければならないというか、その間は年を取らない、みたいな感覚ですね。でも案外、感じていることと年齢のギャップがぴたっと埋まるタイミングもあって。僕はオフの期間が一番心身ともに優れないかも。何か自分が自分じゃないみたいな感じに思えるし。むしろコロナ期間はずっと緊張していましたね。常にスタンバイ状態だったから。

昔、ザ・フーのピート・タウンゼントが「リラックスなんてしなくていい。ずっと緊張していればいい」と語ったインタビューを思い出しました。
HISASHI

それが果たして良いことなのかどうかは分からないけどね(笑)。幸いにもGLAYは常に何か締め切りがあって、29年間、ずっと小忙しかった。締め切りって、あると嫌だけど、無くてもそれそれでつまらないんですよね(笑)。

ライターとしては首がもげるくらい禿同です。ところでこれ、タイトルが「Pianista」なのに、ピアノが全く入ってないんですけど。
HISASHI

実はデモの時点ではすげえピアノロックだったんですよ。でもサクライくんと一緒に制作を始めたら、マリンバとか変拍子のリズムとかすごく彼らしいアレンジがどんどん加わっていって、結局ピアノは無くなったんだけど、名前だけは残しとこうかなと思って(笑)。

そもそも「Pianista」という発想はどこから?
HISASHI

曲が先にあって、歌詞は『ブラッククローバー』のテーマに乗っかるつもりで書き始めました。少年ジャンプ特有のヒロイズムですね。サビでは元気に胸を張って生きていてほしいという思いも込めて。ミュージックビデオには顕著に出ていますが、要は音楽を目指して失敗する人の話で。僕らはたまたま運がよかったけど、世間にはそんな人たちもたくさんいる。そういう人と、その周りの人を描きたかったんです。生きるって大変なじゃないですか。どんな人にも壮絶な人生はあると思うし。でもみんなしっかりと生きている。その切なさのようなものも描けたらと思いました。

個人的に「スマホの数だけ咲いたストーリー」というフレーズが秀逸だなあと。それをTAKUROさんに話したら、「これは俺からは絶対出ないフレーズ」とおっしゃっていました。
HISASHI

あははは! ありがとうございます。この歌詞の1番の主人公は、明るい子だけど、実はすごく家庭が大変で、みたいな葛藤を抱えている。でも2番ではいきなりカート・コバーンの話になっちゃう。もうクエンティン・タランティーノの映画ぐらい話が飛んじゃう(笑)。僕、歌詞を書いてもあまりクローズアップされないから、突然話が変わっても誰も気づかないかなあと思って。

そんなことないし気付ますよ(笑)。歌詞に登場するカート・コバーンとか、更に前の世代だとジミ・ヘンドリックスやジャニス・ジョプリン、ブライアン・ジョーンズといった27歳で早逝したミュージシャンたちについては?
HISASHI

10代の頃は少し憧れもあったのかな。最初はパンクから入ったし、ロック=衝動だったし。

つまりノー・フューチャーでありドント・トラスト・オーバー・サーティーという精神性だった?
HISASHI

そう。でもGLAYのメンバーと会って変わったというか。あと、メジャーデビューすればビジネスという側面もあるのでノー・フューチャーなんて言ってる場合じゃなかったし(笑)。

今作のギタープレイについても聞かせてください。例えば「SEVEN DAYS FANTASY」ではギターがグルーヴを引っ張っていくような奥行きのあるメロディとアレンジが聴けますが。
HISASHI

リスナーによっては、かつてGLAYをBOØWYが作ったビート系の後継者みたいな感じに捉えていた人もいたと思うんだけど、実はGLAYの得意とするものって、こういうシャッフル系の楽曲や意外とグルーヴィーなものだったりする。で、特に僕はそこが自分でも得意で上手い、と思う(笑)。何より、俺にはまず「TAKUROが作るメロディに対するプロのギタリスト」という自負があるんですよ。

それ、いい言葉ですね。
HISASHI

「Buddy」もTAKUROから「これに何かリフを付けて」みたいな感じで振られると燃えるし、リフもソロも入れて「ここはTAKUROのギターだよ?」みたいな返し方もするし。TAKUROのほうも、「Pianista」みたいにギターの入る隙があまり無いような曲でもきっちり上手く入れてくれて。言葉でギターについてのやり取りはほとんど交わさないけど、何だかんだんで上手くいきますね。

お互いギタリストとして全くタイプが異なる点も、上手く作用している?
HISASHI

そうかもしれない。本当に僕とTAKUROは全くタイプが異なりますからね。TAKUROがギター増やすと、「ま〜た古臭いの増やして。同じようなの何本も持ってるじゃないの!」ってお母さんみたいなこと言いたくなっちゃう(笑)。僕は僕で5本と決めたら5本しか使わない上に変なギターが多いし。今回のツアーでもタルボを真剣に使ってみて、改めていいギターだなと思いましたね。あとはメンバーの出方も見ながら使い方を考えたり。メンバーがどうくるか、ステージに上がるまで読めない部分もあるんで。

「読めない」で思い出しましたが、HISASHIさん、ツアーの東京最終日の終盤のMCで、いきなりステージ上でiPad広げて、進行ガン無視でNetflix見始めましたよね? あれは何だったんですか? TERUさんもTAKUROさんも、いささか失笑気味でしたけど(笑)。
HISASHI

MCは大体ふざけるんですけど、あの日は映像収録が入っていたんで、真面目にまとめるようなMCをするのとか何か嫌で……だからずっとNetflix見てようと思って。まあ一種のアンチテーゼですよ。でも演奏中にiPadが邪魔でしょうがなくて、ちょっとだけやらなきゃよかったと後悔しました(笑)。

では11月からのツアーでのアンチテーゼも楽しみにしています(笑)。
HISASHI

はい(笑)。

まずは今年後半戦のツアーが楽しみですが、最後にちょっと先回りして、来年の30周年への抱負をいただけますか?
HISASHI

これまでの周年でも言ってきましたけど、全方位に向けて“還元”したいですね。お客さんにも、マネジメントやレーベルにも、曲たちにも。感謝を込めてひたすら丁寧にやりたい。海外のアーティストが来日公演でやるような代表曲だらけのベタなセットリストをやってもいいし。とにかく「難しく考えないこと」を第一に、楽しくやれたらと思います。

文・内田正樹

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