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Vol.92 『ONE LOVE Anthology』Demo & Remix Review

リミックスを行なったレコーディング・エンジニアの競紀行氏本人にDISC1を全曲解説してもらった前回に引き続き、今回は『ONE LOVE Anthology』DISC2に収録されたデモ音源を解説する。ある意味、デモを聴いてもらうための『Anthology』シリーズである。今回収録されたデモも興味深く聴けるものばかり。GLAYの楽曲の数々は最初から皆さんが聴いた音源と同じ形ではなく、TAKUROを始めとするコンポーザーの作るメロディや歌詞があって、それをメンバーの手によってバンドサウンドで構成し、プロデューサーのアドバイスやエンジニアのテクニックによって磨きをかけて、本チャンの録音を経て完成にたどり着いたものである。このDISC2に収録されているのは、最終レコーディング前の言わば“仮組み”といったものではあるのだが、それだけにバンドとして最終形態をどう想像していたのか、あるいは想像していなかったのかが分かる、第一級の史料なのである。

2021.3.11

1. ALL STANDARD IS YOU Demo
1990年代にはこういうタイプのガレージ系オルタナバンドがいたなぁと思わせる、剥き出しのバンド感を感じるテイクだ。静と動のバランス、そのメリハリの効いた感じは、さすがに決定稿の方に軍配が上がるものの、ドラムを含めて各パートが個性的に鳴っていることがはっきりと確認できるところは(この楽曲に限った話ではないけれども)がデモのデモらしいところではあろうか。パッと聴いた感じでは決定稿とさほど印象が変わらない印象を受けるが、聴き進めていくうちに、歌詞、サビメロが異なっていることや、鍵盤の使い方の違いなど、制作過程が想像できるのも楽しい。
2. WET DREAM Demo
これも剥き出しのバンド感がカッコいい。決定稿ではエレキギターが隙間なく重ねられているが、デモの段階でも2本のギターがかなり濃く入っていたことを確認できる。サビで左右それぞれから聴こえてくるHISASHIとTAKUROのギターのタイプの違いや、間奏で見せる圧巻のツインソロなど、改めてGLAYがギターバンドであり、ハードなロックバンドであることを知らしめてくれるテイクと言えよう。コピーバンド向けの教材としてもおすすめしたいほど(マジで)。決定稿と聴き比べると、TERUのコーラスやギターを重ねることで“DREAM感”を出していることが分かって興味深い。
3. 嫉妬 Demo
イントロと間奏にはオペラ風のクラシカルな要素が配されており、デモの段階から楽曲の世界観がはっきり見えていたと思われる。ただ、歌の主旋律こそ大きく変わっていないものの、決定稿の“KURID / PHANTOM mix”とも、今回の『Anthology』版とも、まったく印象が異なるのがかなりおもしろい。その意味では、真っ先に3者の聴き比べをおすすめしたい楽曲である。個人的には『NO DEMOCRACY』収録の「Flowers Gone」を思い出したテイクではあって、と言うことは、つまり、ここにはGLAYがバンド結成時から元々持っていた“らしさ”があるのかもしれない。
4. HIGHWAY No.5 Demo
間奏での演奏が若干粗い印象はあるので、このままでもGLAYの音源として十分イケる…とまでは思わないまでも、名前を隠してインディーズでのリリースならあるいは…くらいには思わせるほどにはしっかりとした作りのデモ。サビの《高速道路大渋滞 自慢のターボかなり不機嫌さ》以外の歌詞がまるっと別の物ではあるが、何度か聴いていると「これはこれでいいかも…」と思うような味わいがある。完成版と聴き比べると、イントロでシンセっぽい音を加えたり、ギターを重ねたり、シンプルなパンクチューンを単調に聴かせない工夫が施されていることがはっきりと分かる。
5. Fighting Spirit Demo
DISC1のエンジニアを務めた競紀行氏をして「リミックスにあたって一番苦労した」と言わしめたナンバーだが、デモの完成度も高い。録音状態の粗さを除けば、このまま正式音源として発表することも可能だったのではないかとすら思わせるほどにバンドアンサンブルは整っている。サビ以外の歌詞はあまり変化がないように見えて、《人生の気高さよ》が《人生の不思議さよ》、《俺は何を学んだ?》が《人は何を学んだ?》、さらには《あの日をよく憶えている 人生の気高さよ》が《お前をよく憶えている 運命の気高さよ》など、完成に至るまで遂行を重ねたことがうかがえる。
6. ひとひらの自由 Demo
当初からレゲエをやりたかったことが各パートの演奏からはっきりと感じ取れる。これもまた、もう少しバランスを整えればこのままリリースできるレベルではあるだろうし、全体的には完成版との差異を大きく感じない。歌詞もほとんど変わってないようだ。おそらくこのデモ版のアレンジを基本としてレコーディングされ、それを当時のエンジニアがミックスしたのだろう。聴き比べることによって、ミックスのおもしろさを間近にできるだろうし、競紀行氏も指摘されていたように、佐久間正英氏のプロデュースの妙、アレンジ力を感じることもできると思う。
7. THINK ABOUT MY DAUGHTER Demo
最近のライブで聴いた印象とそう変わりがない…というと訝しがられるかもしれないけれど、実際に聴いてみるとおそらく納得してもらえると思う。決定稿よりもこのデモの方がライブっぽい。歌のメロディ、ギターサウンド、曲の展開と、楽曲の骨子そのものが最初の段階からしっかりとしていたことがよく分かる。また、当初から鍵盤が重要なポジションを占めていたこともこのテイクから確認することができる。逆に言えば、そうした完成度の高い楽曲だからこそ、初出から20年を経た今でもライブで演奏されているのだろう。
8. VIVA VIVA VIVA Demo
意外なほどにデモがしっかりとしていて驚いた。決定稿は遊び心が感じられるナンバーであって、その音のカラフルさからミキシングの段階であれこれ手を加えたのだと勝手に想像していたが、最初からこの独特の雰囲気はあったのである。ギターもデモの段階から結構重ねており、The Beatles「Tomorrow Never Knows」風ウミネコの音(?)、クリアトーン、1980年ニューウェーブ調と、様々な音色を聴くことができる。コーラスも同様で、サビに重なるハイトーン、エフェクトがかかったファニーなボイスもデモの時点ですでにあった。設計図がちゃんとしていたということだろう。
9. Prize Demo
これは一発録りだろうか。ドラムが大きく、ボーカルがやや控えめな印象で、一発録りじゃないにしろ、ラフミックス感が強く、デモらしいデモと言えるかもしれない。完成版はさすがにいろいろと整理されており、コーラスにしてもギターにしてもそのバランスによって楽曲全体がふくよかになっていくことがよく分かる。左から聴こえてくるギターがそのコード感、リズム共にややアンバランスのようでいて(特に1番Aメロが顕著)、そこがこの楽曲のポップさに繋がっているわけだが、このデモ版ではそれがはっきりと確認できるのもいい。HISASHIフリーク、必聴!
10. MERMAID Demo
最初にこのイントロを聴いた時、「何かのミスで別のアーティストの楽曲が紛れて込んだのか!?」と思ったほど、決定稿とはまったく異なるサウンドとアレンジ。TAKUROが仮歌を入れており、こういうテイクを聴けるのが『Anthology』シリーズの醍醐味だろう。以前、某番組においてTAKUROがマキタスポーツ氏と“シティ/アーバン論争”を繰り広げていたが、GLAYの中には、シティかアーバンか分からないが、確実にその精神が宿っていることをうかがわせるテイクである。しかし、このデモが、どうしてあの「MERMAID」になったのか……ホント不思議。
11. mister popcorn Demo
このDISC2に収録されているものはすべて聴き比べが楽しいものばかりではあるが、これは特にデモ、2001年の決定稿、『Anthology』版と順に聴いていくことをおすすめしたい。デモに何が加わって(あるいは何がそぎ落とされて)最終テイクになったのか、また、今回のリミックスではそこからさらに何が強調されたのかを探っていくというマニアックな聴き方ができる。意外にも(と言っては失礼だろうが)元々、二つのタイプの違うR&Rが合わさって構成されていたことや、楽曲の進行そのものはデモに忠実であることも確認できるはず。
12. 電気イルカ奇妙ナ嗜好 Demo
2001年に初めて聴いた時からカントリーっぽい曲だなと思っていた気がするが、このテイクを聴いてやっぱりそうだったのかと納得。そうは言っても、コテコテなカントリーではなく、そこからさらにアレンジを加えてポップに仕上げているところに、バンドならではの妙味が垣間見えるテイクと言える。決定稿では、まさに奇妙なデジタル音も重ねられた上、子供たちの声による合唱も入っているので、可愛らしいナンバーのように思えるが、その実、The Beatles「Yellow Submarine」にも近いサイケデリックロックと捉えた方がいいだろう。その秘密はデモの歌詞にある。
13. STAY TUNED Demo
決定稿のイントロとアウトロで聴こえるラジオDJの声が印象的でどうもそのギミックに耳が取られがちではあるが、DISC1でリミックスを担当した競紀行氏が「アレンジが素晴らしく(中略)ミックスも非常に良く出来ていた」と指摘している通り、そもそも楽曲そのものが相当しっかりと作り込まれていたことは、このデモからも分かる。ラジオDJのSFを除けば、決定稿とデモを聴いた時の印象は大きく変わらないだろう。強いて聴きどころを挙げれば、そのSEに隠れたバンドサウンドがはっきりと掴めるところだろうか。SEを入れて正解だったかどうかの判断は聴く人に任せる。
14. 君が見つめた海 Demo
サビメロを強調したかったのだろうか、このデモ版では所謂サビ頭になっているのがまず印象的。それ以上にそこに讃美歌風のシンセが乗っていたことにも新鮮な驚きがあった。完成した決定稿はチャイナ風なフレーズも加わっているし、AメロではJIROのベースが大分動いて躍動感を演出しているのだが、元々は荘厳なイメージであったのだろうか。そうかと思えば、今回のリミックスではより前面に出ているサビでのギターのアルペジオもこのデモ版にはなく、アコギのストロークが重ねられ、軽快さが感じられる。これまた決定稿に至るまでバンドアンサンブルを試行錯誤したことを想像できる。
15. 夢遊病 Demo
個人的には、ロッカバラードというところで、『NO DEMOCRACY』収録の「元号」を連想したが、こうしたフォーキーなメロディも確実にTAKUROのルーツにあることを示すと同時に、それをバンドサウンドで固めるとGLAYのロックになるというところでは、「夢遊病」はその代表的なナンバーかもしれない。タイトルからのイメージであろう、決定稿にも『Anthology』版にもサイケデリックなストリングスが配されているが、デモ版には外音がほとんど入っておらず(鍵盤と打ち込みのリズムくらい)、気持ちがいいほどにバンドサウンド全開である。音が活き活きとしている。
16. Christmas Ring Demo
とにかくサビのメロディが秀逸。キャッチーな「THINK ABOUT MY DAUGHTER」や「STAY TUNED」と同時期に、それらとは対極にあるような叙情性たっぷりの旋律を創造していたとは、この時期のTAKUROの仕事っぷりには敬服である。これも決して埋もれさせてはいけない名曲のひとつであろう。決定稿では個々の音がクリアに録られているし、ストリングスなどの外音が配されてはいるものの、びっくりするほどにバンドのアレンジは変わっていない。これは変えなかったのではなく、変えることができなかったと想像する。このメロディと世界観に大きく手を加えることは難しかったのだろう。
17. GLOBAL COMMUNICATION Demo
当時、アシスタントとしてGLAYのレコーディングに携わっていた競紀行氏によると、John Smithがミックスしたこの楽曲の決定稿を聴いた時、メンバー全員がそのすごさにぶっ飛んだという。それにも十二分にうなずける。このデモが稚拙だということではない。このデモ版も、歌詞を除けば、ほぼ完成形と言っていい。デモもしっかりと「GLOBAL COMMUNICATION」になっている。決定稿は外音の入れ方、バランス、推し引きが絶妙過ぎるほどに絶妙なのである。その意味では、このテイクを聴いた直後にDISC1の同曲を聴いて、当時のメンバーの驚きを体感してほしい。あと、今度ライブでこのデモ版の歌詞の再現を望む。
18. ONE LOVE ~ALL STANDARD IS YOU reprise 2021 ver.2~
DISC2収録曲ではこれだけがデモではなく、DISC1のラストに収録された「ONE LOVE ~ALL STANDARD IS YOU reprise 2021~」の別バージョン。すでに録音された音源の組み合わせを変えるだけで、まったく別の印象に仕上げることができるのだから、リミックスというのは本当におもしろい。いずれの「reprise」もまったく感触が異なる。個人的な感想を記せば、このver.2はどこか昭和の匂いがする。とは言っても、完全に過去に寄せたものではなく、サンプリング手法で過去へのオマージュを捧げるQuentin Tarantinoの映画のような味わい。
19. SPECIAL THANKS Demo
「とまどい」とのダブルA面シングルとしてリリースされた楽曲で、TAKUROがこちらを1曲目にしたいということで、「とまどい/SPECIAL THANKS」と「SPECIAL THANKS/とまどい」の2バージョンが製作されたということを知るファンも多いはず。オリジナルアルバム未収録のナンバーなので、『Anthology』シリーズに収録されないこともあり得たが、こうして例外的にデモが収録されたのはそれだけTAKUROの思い入れが強かったということだろう。デモ版はアコギ中心のラフな録音ではあるものの、元から歌メロが鮮烈なので、聴き応えはいい意味で変わらない。これも名曲。
20. BACK-UP Demo
TERU作詞作曲のシングル「STAY TUNED」のカップリング曲。ラウド系ミクスチャーロックと言っていいナンバーで、そのヒップホップ的要素がデモの段階から構想にあったことが分かる。注目はBメロの歌。デモではファルセットを使っていない。あの高音はこの楽曲のフックになっていてとてもいい感じなのだが、どの段階から完成版のアレンジになったのか興味深いところ。個人的には、そのファンキーさとボーカルのレンジの広さからちょっとばかしキ○○ヌーを連想したのだが、それはともかくとしても、20年前のGLAYの挑戦的姿勢を再確認させるところではある。
文:帆苅智之

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