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Vol.92 『ONE LOVE Anthology』Demo & Remix Review

リミックスを行なったレコーディング・エンジニアの競紀行氏本人にDISC1を全曲解説してもらった前回に引き続き、今回は『ONE LOVE Anthology』DISC2に収録されたデモ音源を解説する。ある意味、デモを聴いてもらうための『Anthology』シリーズである。今回収録されたデモも興味深く聴けるものばかり。GLAYの楽曲の数々は最初から皆さんが聴いた音源と同じ形ではなく、TAKUROを始めとするコンポーザーの作るメロディや歌詞があって、それをメンバーの手によってバンドサウンドで構成し、プロデューサーのアドバイスやエンジニアのテクニックによって磨きをかけて、本チャンの録音を経て完成にたどり着いたものである。このDISC2に収録されているのは、最終レコーディング前の言わば“仮組み”といったものではあるのだが、それだけにバンドとして最終形態をどう想像していたのか、あるいは想像していなかったのかが分かる、第一級の史料なのである。

2021.3.11

1. ALL STANDARD IS YOU Demo
1990年代にはこういうタイプのガレージ系オルタナバンドがいたなぁと思わせる、剥き出しのバンド感を感じるテイクだ。静と動のバランス、そのメリハリの効いた感じは、さすがに決定稿の方に軍配が上がるものの、ドラムを含めて各パートが個性的に鳴っていることがはっきりと確認できるところは(この楽曲に限った話ではないけれども)がデモのデモらしいところではあろうか。パッと聴いた感じでは決定稿とさほど印象が変わらない印象を受けるが、聴き進めていくうちに、歌詞、サビメロが異なっていることや、鍵盤の使い方の違いなど、制作過程が想像できるのも楽しい。
2. WET DREAM Demo
これも剥き出しのバンド感がカッコいい。決定稿ではエレキギターが隙間なく重ねられているが、デモの段階でも2本のギターがかなり濃く入っていたことを確認できる。サビで左右それぞれから聴こえてくるHISASHIとTAKUROのギターのタイプの違いや、間奏で見せる圧巻のツインソロなど、改めてGLAYがギターバンドであり、ハードなロックバンドであることを知らしめてくれるテイクと言えよう。コピーバンド向けの教材としてもおすすめしたいほど(マジで)。決定稿と聴き比べると、TERUのコーラスやギターを重ねることで“DREAM感”を出していることが分かって興味深い。
3. 嫉妬 Demo
イントロと間奏にはオペラ風のクラシカルな要素が配されており、デモの段階から楽曲の世界観がはっきり見えていたと思われる。ただ、歌の主旋律こそ大きく変わっていないものの、決定稿の“KURID / PHANTOM mix”とも、今回の『Anthology』版とも、まったく印象が異なるのがかなりおもしろい。その意味では、真っ先に3者の聴き比べをおすすめしたい楽曲である。個人的には『NO DEMOCRACY』収録の「Flowers Gone」を思い出したテイクではあって、と言うことは、つまり、ここにはGLAYがバンド結成時から元々持っていた“らしさ”があるのかもしれない。
4. HIGHWAY No.5 Demo
間奏での演奏が若干粗い印象はあるので、このままでもGLAYの音源として十分イケる…とまでは思わないまでも、名前を隠してインディーズでのリリースならあるいは…くらいには思わせるほどにはしっかりとした作りのデモ。サビの《高速道路大渋滞 自慢のターボかなり不機嫌さ》以外の歌詞がまるっと別の物ではあるが、何度か聴いていると「これはこれでいいかも…」と思うような味わいがある。完成版と聴き比べると、イントロでシンセっぽい音を加えたり、ギターを重ねたり、シンプルなパンクチューンを単調に聴かせない工夫が施されていることがはっきりと分かる。
5. Fighting Spirit Demo
DISC1のエンジニアを務めた競紀行氏をして「リミックスにあたって一番苦労した」と言わしめたナンバーだが、デモの完成度も高い。録音状態の粗さを除けば、このまま正式音源として発表することも可能だったのではないかとすら思わせるほどにバンドアンサンブルは整っている。サビ以外の歌詞はあまり変化がないように見えて、《人生の気高さよ》が《人生の不思議さよ》、《俺は何を学んだ?》が《人は何を学んだ?》、さらには《あの日をよく憶えている 人生の気高さよ》が《お前をよく憶えている 運命の気高さよ》など、完成に至るまで遂行を重ねたことがうかがえる。
6. ひとひらの自由 Demo
当初からレゲエをやりたかったことが各パートの演奏からはっきりと感じ取れる。これもまた、もう少しバランスを整えればこのままリリースできるレベルではあるだろうし、全体的には完成版との差異を大きく感じない。歌詞もほとんど変わってないようだ。おそらくこのデモ版のアレンジを基本としてレコーディングされ、それを当時のエンジニアがミックスしたのだろう。聴き比べることによって、ミックスのおもしろさを間近にできるだろうし、競紀行氏も指摘されていたように、佐久間正英氏のプロデュースの妙、アレンジ力を感じることもできると思う。
7. THINK ABOUT MY DAUGHTER Demo
最近のライブで聴いた印象とそう変わりがない…というと訝しがられるかもしれないけれど、実際に聴いてみるとおそらく納得してもらえると思う。決定稿よりもこのデモの方がライブっぽい。歌のメロディ、ギターサウンド、曲の展開と、楽曲の骨子そのものが最初の段階からしっかりとしていたことがよく分かる。また、当初から鍵盤が重要なポジションを占めていたこともこのテイクから確認することができる。逆に言えば、そうした完成度の高い楽曲だからこそ、初出から20年を経た今でもライブで演奏されているのだろう。
8. VIVA VIVA VIVA Demo
意外なほどにデモがしっかりとしていて驚いた。決定稿は遊び心が感じられるナンバーであって、その音のカラフルさからミキシングの段階であれこれ手を加えたのだと勝手に想像していたが、最初からこの独特の雰囲気はあったのである。ギターもデモの段階から結構重ねており、The Beatles「Tomorrow Never Knows」風ウミネコの音(?)、クリアトーン、1980年ニューウェーブ調と、様々な音色を聴くことができる。コーラスも同様で、サビに重なるハイトーン、エフェクトがかかったファニーなボイスもデモの時点ですでにあった。設計図がちゃんとしていたということだろう。
9. Prize Demo
これは一発録りだろうか。ドラムが大きく、ボーカルがやや控えめな印象で、一発録りじゃないにしろ、ラフミックス感が強く、デモらしいデモと言えるかもしれない。完成版はさすがにいろいろと整理されており、コーラスにしてもギターにしてもそのバランスによって楽曲全体がふくよかになっていくことがよく分かる。左から聴こえてくるギターがそのコード感、リズム共にややアンバランスのようでいて(特に1番Aメロが顕著)、そこがこの楽曲のポップさに繋がっているわけだが、このデモ版ではそれがはっきりと確認できるのもいい。HISASHIフリーク、必聴!
10. MERMAID Demo
最初にこのイントロを聴いた時、「何かのミスで別のアーティストの楽曲が紛れて込んだのか!?」と思ったほど、決定稿とはまったく異なるサウンドとアレンジ。TAKUROが仮歌を入れており、こういうテイクを聴けるのが『Anthology』シリーズの醍醐味だろう。以前、某番組においてTAKUROがマキタスポーツ氏と“シティ/アーバン論争”を繰り広げていたが、GLAYの中には、シティかアーバンか分からないが、確実にその精神が宿っていることをうかがわせるテイクである。しかし、このデモが、どうしてあの「MERMAID」になったのか……ホント不思議。
11. mister popcorn Demo
このDISC2に収録されているものはすべて聴き比べが楽しいものばかりではあるが、これは特にデモ、2001年の決定稿、『Anthology』版と順に聴いていくことをおすすめしたい。デモに何が加わって(あるいは何がそぎ落とされて)最終テイクになったのか、また、今回のリミックスではそこからさらに何が強調されたのかを探っていくというマニアックな聴き方ができる。意外にも(と言っては失礼だろうが)元々、二つのタイプの違うR&Rが合わさって構成されていたことや、楽曲の進行そのものはデモに忠実であることも確認できるはず。
12. 電気イルカ奇妙ナ嗜好 Demo
2001年に初めて聴いた時からカントリーっぽい曲だなと思っていた気がするが、このテイクを聴いてやっぱりそうだったのかと納得。そうは言っても、コテコテなカントリーではなく、そこからさらにアレンジを加えてポップに仕上げているところに、バンドならではの妙味が垣間見えるテイクと言える。決定稿では、まさに奇妙なデジタル音も重ねられた上、子供たちの声による合唱も入っているので、可愛らしいナンバーのように思えるが、その実、The Beatles「Yellow Submarine」にも近いサイケデリックロックと捉えた方がいいだろう。その秘密はデモの歌詞にある。
13. STAY TUNED Demo
決定稿のイントロとアウトロで聴こえるラジオDJの声が印象的でどうもそのギミックに耳が取られがちではあるが、DISC1でリミックスを担当した競紀行氏が「アレンジが素晴らしく(中略)ミックスも非常に良く出来ていた」と指摘している通り、そもそも楽曲そのものが相当しっかりと作り込まれていたことは、このデモからも分かる。ラジオDJのSFを除けば、決定稿とデモを聴いた時の印象は大きく変わらないだろう。強いて聴きどころを挙げれば、そのSEに隠れたバンドサウンドがはっきりと掴めるところだろうか。SEを入れて正解だったかどうかの判断は聴く人に任せる。
14. 君が見つめた海 Demo
サビメロを強調したかったのだろうか、このデモ版では所謂サビ頭になっているのがまず印象的。それ以上にそこに讃美歌風のシンセが乗っていたことにも新鮮な驚きがあった。完成した決定稿はチャイナ風なフレーズも加わっているし、AメロではJIROのベースが大分動いて躍動感を演出しているのだが、元々は荘厳なイメージであったのだろうか。そうかと思えば、今回のリミックスではより前面に出ているサビでのギターのアルペジオもこのデモ版にはなく、アコギのストロークが重ねられ、軽快さが感じられる。これまた決定稿に至るまでバンドアンサンブルを試行錯誤したことを想像できる。
15. 夢遊病 Demo
個人的には、ロッカバラードというところで、『NO DEMOCRACY』収録の「元号」を連想したが、こうしたフォーキーなメロディも確実にTAKUROのルーツにあることを示すと同時に、それをバンドサウンドで固めるとGLAYのロックになるというところでは、「夢遊病」はその代表的なナンバーかもしれない。タイトルからのイメージであろう、決定稿にも『Anthology』版にもサイケデリックなストリングスが配されているが、デモ版には外音がほとんど入っておらず(鍵盤と打ち込みのリズムくらい)、気持ちがいいほどにバンドサウンド全開である。音が活き活きとしている。
16. Christmas Ring Demo
とにかくサビのメロディが秀逸。キャッチーな「THINK ABOUT MY DAUGHTER」や「STAY TUNED」と同時期に、それらとは対極にあるような叙情性たっぷりの旋律を創造していたとは、この時期のTAKUROの仕事っぷりには敬服である。これも決して埋もれさせてはいけない名曲のひとつであろう。決定稿では個々の音がクリアに録られているし、ストリングスなどの外音が配されてはいるものの、びっくりするほどにバンドのアレンジは変わっていない。これは変えなかったのではなく、変えることができなかったと想像する。このメロディと世界観に大きく手を加えることは難しかったのだろう。
17. GLOBAL COMMUNICATION Demo
当時、アシスタントとしてGLAYのレコーディングに携わっていた競紀行氏によると、John Smithがミックスしたこの楽曲の決定稿を聴いた時、メンバー全員がそのすごさにぶっ飛んだという。それにも十二分にうなずける。このデモが稚拙だということではない。このデモ版も、歌詞を除けば、ほぼ完成形と言っていい。デモもしっかりと「GLOBAL COMMUNICATION」になっている。決定稿は外音の入れ方、バランス、推し引きが絶妙過ぎるほどに絶妙なのである。その意味では、このテイクを聴いた直後にDISC1の同曲を聴いて、当時のメンバーの驚きを体感してほしい。あと、今度ライブでこのデモ版の歌詞の再現を望む。
18. ONE LOVE ~ALL STANDARD IS YOU reprise 2021 ver.2~
DISC2収録曲ではこれだけがデモではなく、DISC1のラストに収録された「ONE LOVE ~ALL STANDARD IS YOU reprise 2021~」の別バージョン。すでに録音された音源の組み合わせを変えるだけで、まったく別の印象に仕上げることができるのだから、リミックスというのは本当におもしろい。いずれの「reprise」もまったく感触が異なる。個人的な感想を記せば、このver.2はどこか昭和の匂いがする。とは言っても、完全に過去に寄せたものではなく、サンプリング手法で過去へのオマージュを捧げるQuentin Tarantinoの映画のような味わい。
19. SPECIAL THANKS Demo
「とまどい」とのダブルA面シングルとしてリリースされた楽曲で、TAKUROがこちらを1曲目にしたいということで、「とまどい/SPECIAL THANKS」と「SPECIAL THANKS/とまどい」の2バージョンが製作されたということを知るファンも多いはず。オリジナルアルバム未収録のナンバーなので、『Anthology』シリーズに収録されないこともあり得たが、こうして例外的にデモが収録されたのはそれだけTAKUROの思い入れが強かったということだろう。デモ版はアコギ中心のラフな録音ではあるものの、元から歌メロが鮮烈なので、聴き応えはいい意味で変わらない。これも名曲。
20. BACK-UP Demo
TERU作詞作曲のシングル「STAY TUNED」のカップリング曲。ラウド系ミクスチャーロックと言っていいナンバーで、そのヒップホップ的要素がデモの段階から構想にあったことが分かる。注目はBメロの歌。デモではファルセットを使っていない。あの高音はこの楽曲のフックになっていてとてもいい感じなのだが、どの段階から完成版のアレンジになったのか興味深いところ。個人的には、そのファンキーさとボーカルのレンジの広さからちょっとばかしキ○○ヌーを連想したのだが、それはともかくとしても、20年前のGLAYの挑戦的姿勢を再確認させるところではある。
文:帆苅智之

Vol.91 競 紀行インタビュー

リーダー・TAKUROが自身のライフワークのひとつと公言する“Anthologyシリーズ”。その第8弾となる『ONE LOVE Anthology』のリリースが4月28日に決定した。デモ音源の収録や20年前の資料や写真なども相変わらず注目ではあるが、今回は、当時録音された音源を基に新たにミックス、マスタリングを行なったDISC1を今まで以上に注目していいと思う。というのも、今回リミックスを行なったのは、現在数多くのGLAY楽曲を手がけるレコーディング・エンジニアの競 紀行氏。当時はまだアシスタントであった氏が20年の時を経て、当時の空気感をそのままに、新たな解釈の元で楽曲の再構築を行なったのである。GLAYと共にキャリアを重ねてきた競氏だからこそ実現した『ONE LOVE』のアップデイト。その収録曲の聴きどころ、推し曲などを競氏本人に語ってもらった。

2021.02.23

まず競さんのプロフィールをお伺いしたいのですが、中学校、高校と放送部に在籍しておられて、そこからエンジニアを目指されたそうですね。

競 紀行
そうです。高校卒業後の進路を決めるところで、放送部にいてミキサーを触ったり機械いじりが好きでしたから、そういう仕事に就きたいなと思って、 「それに向けてどういう進路を取ったらいいか?」と調べて、日本工学院という専門学校に進むことを決めたんです。

高校の頃にはバンドをやっていらっしゃったとも聞いています。

競 紀行
ははは(笑)。まぁ、趣味のバンドで、ギターをちょろっとたしなむ程度でしたね。高校の文化祭でちょっと披露したりするコピーバンドで(笑)。

ちなみにその頃は何をコピーしていたんですか?

競 紀行
当時よく聴いていたのが、今で言うX JAPAN。あとはMotley Crue、Guns N' Rosesだとか、あの辺のハードロックが特に好きで、コピーしてましたね。

ハードロックがお好きで機械いじりも好き。それで音響にも興味を持ったという感じなんでしょうね。それで、専門学校を卒業されて、エンジニアの仕事に就いたと伺っておりますが、その後、佐久間正英さんと出会われたというのが、今のお仕事での競さんの大きなターニングポイントだったとも聞いております。その経緯を教えていただけますか?

競 紀行
卒業してから勤めた会社が2社ほどあるんですけど、その2つのスタジオで約2年間、アシスタントをやっていたんです。で、最後にいた一口坂スタジオで──今はもうなくなってしまったんですけど、四谷にあったスタジオで、そこでアシスタントをしている時に初めて佐久間さんに出会ったんです。エレファントカシマシとか、その時、佐久間さんがプロデュースしていた何バンドかのアシスタントに就いたんですけど、そこで佐久間さんに非常に気に入ってもらったんですね。そのあと、一口坂スタジオで1年間くらい働いてたんですけども、ちょっと事情があって辞めまして、一旦、音楽業界から離れたんですよ。半年ほど離れていたんですけど、ある時、佐久間さんから突然、電話がかかってきまして、「一口坂、辞めたんだって?」って訊かれて。「今、何してるの?」「フラフラしてます」みたいな感じで話してたら(笑)、「それじゃあ、ウチにおいでよ」って。それが1999年の2月頃だったと思いますね。

競さんから見て佐久間正英さんのすごさってどんなところでしたか?

競 紀行
佐久間さん以外の現場にもいろいろ就かせてもらったんですけど、佐久間さんはそのプロデュース能力が特殊と言うか、チープな言葉かもしれないんですけど、やっぱり天才な部分があって、そのさい配を見てて、「この人、凄いなぁ」と感銘は受けましたね。

そんな佐久間正英さんから「ウチに来ないか?」と誘われた時は、どんなお気持ちでしたか?

競 紀行
それはもう嬉しかったですね。自分は昔からバンドものが好きで、佐久間さんからご指名いただいた時もバンドものをメインに(プロデュースを)やられていたので、単純に嬉しかったです。

「すごい人とまた一緒に仕事が出来る」という盛り上がりがあったということでしょうか。

競 紀行
はい、そうですね。

さて、読者の中にはレコーディング・エンジニアという仕事についてよくご存じない方もいらっしゃると思いますので、初歩的な質問をひとつさせてください。今回の『ONE LOVE Anthology』のDISC1は『ONE LOVE』のリミックス&リマスタリングです。ミックス、およびマスタリングというものを、それを知らない人に説明していただくとすると、どうなりますか?

競 紀行
(『ONE LOVE Anthology』での)私の仕事はリミックスまでで、今回リマスタリングはやっていないんですが──よく私は料理、調理に例えるんですけども、ミキシングの前段階でまずレコーディングという作業があります。そのレコーディングというのは、材料を買ってきて、食べやすいように切ったり、下ごしらえすることだと思うんですね。で、ミキシングはそれを調理することです。煮るなり、焼くなり、炒めるなり。あとは、皆さんにより美味しく召し上がっていただけるようにスパイスを加えたりとか、火加減も調整したりして、ひとつの作品が出来上がる。そのあとでマスタリングという作業があります。それは分かりやすく言うと、盛り付けですね。単純にお皿にドンと盛り付ける場合もありますし、そこに花を添えたり、ソースを垂らしたりとか、そういう作業がマスタリング。そんな流れでしょうかね。なかなか一言で説明するのは難しいんですけど、読者さんにはそれが一番、想像しやすいかなと思います。

レコーディングではボーカル、ギター、ベース、ドラムそれぞれの音をそれぞれに録りますが、それを文字通り混ぜ合わせるのがミキシングですね。

競 紀行
そうですね。今回の『ONE LOVE Anthology』に関しては、私がそれをやらせていただきました。過去に録った素材はすべて揃っているわけで、それを調理いたしました。

分かりました。それでは、競さんとGLAYとの出会いの話も伺いたいと思います。競さんが佐久間正英さんのスタジオに入られたのが1999年ということでしたが、GLAYとの最初の仕事は何だったのでしょう?

競 紀行
えーっと……20年前なんでうろ覚えなんですけど(苦笑)、入社が1999年2月頃ですから、『HEAVY GAUGE』のレコーディングが終了間際だったと記憶しています。確か「HEAVY GAUGE」という曲のダビングで何回かアシスタントに入ってましたね。

1999年と言うと、すでにGLAYは大ブレイクをしていた頃でした。一緒に仕事をする前はGLAYのことをどんな風にご覧になっていましたか?

競 紀行
えーっと自分は……「氷室(京介)さんによく似た雰囲気のバンドだなぁ」って思ってました(苦笑)。でも、曲はすごくいいので、「いいバンドだなぁ」と思って見てましたね。好きとか嫌いとかではなくて、単純に“今、売れてるアーティストさん”という印象ですね。覚えているのは──これは佐久間さんのスタジオに入社する前、そこで面接を受けている時のことなんですけど、メンバーがライブ終わりに機材を運びに来たんです。ドッグハウス・スタジオという名前のスタジオだったんですけど、わざわざメンバー自ら来られてて。あんまり小奇麗じゃないお兄さん方が機材を運んでるんで、「誰だろうな?」とよく見たら、TERUさんとTAKUROさんだったという(笑)。1999年ですからGLAYはすごく売れていた時期ですけど、機材は自分たちで運んでいたりしている姿を見て、「ああ、偉いな」という印象はありましたね。

すでにスーパーバンドではあったけれども、オフステージでは若手バンドと変わらない姿であったということですね。あと、競さんは札幌のご出身とのことですけど、同じ北海道出身者として、GLAYのメンバーとは話が合うとか、意気投合するようなところもあったんでしょうか?

競 紀行
そうですね。一緒に仕事をするようになっていく上で、同郷というところでの話の共通項とかで通じ合うものはどんどん出てきますよね。ただ、自分は当時まだ全然ペーペーだったので、メンバーさんと親しくコミュニケーションを取るとか、普通に会話する感じではなくて、アーティストさん(とアシスタント・エンジニア)という感じでした。

競さんはアルバム『HEAVY GAUGE』のレコーディング終盤で佐久間正英さんのスタジオに入社されたということでしたが、本格的にGLAYの楽曲を手掛けるようになったのはいつ頃だったんですか?

競 紀行
私が直接レコーディングを手掛けるようになったのはもう少しあとで、2005年頃でしたでしょうか──いや、『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』でもやってましたかね? ……これはこのあとの話にも繋がっていくんですけど、『ONE LOVE』、そしてそのあとの『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』のレコーディングではJohn Smithというエンジニアがいたんですけど、彼の代わりにちょこちょこと歌を録ったりダビングしたり、スタジオをパラって(別々にして)レコーディングする場合もあったんで、他のスタジオへ行ってそこで私がレコーディングすることもあったんですけど、本当の駆け出しのエンジニアの仕事をさせていただいてて、まだメインではなかったんですよ。

そうしますと、今回、競さんが『ONE LOVE Anthology』のリミックスを手掛けられたというのは、何とも興味深いし、競さんにとっては感慨深いことなんでしょうね。

競 紀行
そうですね。本来の流れであれば、たぶんイギリスに居るJohn Smithにお願いするところなんですけど、彼の消息が分からないんで、そういったところで、以前TAKUROさんと話した時に「それじゃあ、競くん、やる?」みたいな話はちょっと振られていたんです。その話を受けて私自身もやりたいと思いましたね。当時のことを覚えているのは私しかいないですし、やるなら自分しかいないだろうと。

2001年の『ONE LOVE』のレコーディングはどんな感じだったのでしょうか? 競さんから見てその空気感はどんな感じだったのか覚えていらっしゃいますか?

競 紀行
空気感……そうですね、当然メンバーさんは当時ものすごく忙しい時期で、今回リミックスするにあたって当時のトラックのキューシートというものを見直したんですけど、時期が集中してるんですね。2001年2月、5月、9月の3回だけなんですよ。レコーディング期間と言ってもおそらく(それぞれ)1~2週間くらいだったと思うんです。皆さん、それくらい集中してダダっと録ってミックスするという流れでしたね。『ONE LOVE』からエンジニアがJohn Smithになって、初めて会うエンジニアが手掛けてくれるというところでメンバーはすごく喜んでいましたね。不安混じりでもあったのでしょうけど、Johnというエンジニアに期待はしていたと思います。

『ONE LOVE』は全18曲入りと大ボリュームなアルバムでしたから、短期間でのレコーディングだったというのは驚きですね。

競 紀行
そうですね。このアルバムの前後2枚くらいは本当に短期集中でワーッと録っていたような時期だったんですね。そういう時代だったというか。その次の『UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY』も曲数が多かったですから、多分TAKUROさんの才能が一番、溢れていた時期なんでしょうね。多岐に渡ってものすごい曲のストックがあるという。

数多くの曲を作るのもすごいことですけど、それを録るのも大変だったでしょうね。相当タイトなスケジュールの中でレコーディング作業を行なっていたんだろうと思いますね。

競 紀行
今じゃ考えられないですけど、わりと深夜までレコーディングしていたことを覚えていますし。

今ほど“時代”と仰られましたけど、2001年頃にはその時代ならではの音の流行などはあったのでしょうか?

競 紀行
僕が現場で働いていて一番、印象に残っているのは、当時はまだデジタルマルチトラックレコーディングで、48チャンネルで、テープを録っていたんですけど、そこから“Pro Tools”を使ってコンピュータで録音する技術にちょうど移行する過渡期だったことですね。ちょっと話は変わりますが、この『ONE LOVE』はテープで録ってるんで、演奏する人の気持ちが非常に籠っているなと──今回そこを一番、感じましたね。完璧ではないにせよ、勢いを詰め込んだというか。コンピュータで録ってないですからUndo(=ひとつ前の操作に戻ること)が効かないわけですよ。だから毎回々々テイクを重ねる度に気持ちを込めて演奏していることをすごく感じました。

なるほど。それでは、ここからは具体的に『ONE LOVE Anthology』について伺っていきたいと思います。私も一早く拝聴させていただきましたが、音の粒立ちの良さと言うんでしょうか、全体的にそこは感じたところではありますね。競さんが今回のリミックスにあたって意識したことはどんなところでしょうか?

競 紀行
まさに今仰られたところですね。音の粒立ちというか、ひとつひとつの音がクリアに聴こえるように…と──そこが一番、重きを置いたところですね。もちろん当時のJohnのミキシングも素晴らしいんですけど、聴こえづらい部分が若干ありまして、そこにフォーカスを当てて、よりクリアに聴こえるように…ということが一番、目指したところです。

収録曲順に訊いてまいります。1曲目「ALL STANDARD IS YOU」。これはドカンと行くところとそうではないところが分かれているので、ミックスの違いを聴き分けるのが好例と言えるナンバーではないでしょうか? 

競 紀行
これはDJ Mass MAD Izm*さんを始め、いろんな方がリミックスをやられていていろんなバージョンが存在するんですけど、純粋にオリジナルな音源を使ってやるのであれば、これくらいのメリハリはほしいなと。そういうところを表現した感じですね。メリハリと音の分離──そこを一番、意識しました。

スクラッチノイズまで入っているのでかなりゴチャっとした印象があるかと思いきや、ギター、ベースはもちろんのこと、ドラムのシンバルやハイハットといった音もクリアに聴こえてカッコいいですよね。

競 紀行
ありがとうございます。本来この曲が持っているポテンシャルはこれくらいないと…という感じですよね。

2曲目は「WET DREAM」。個人的にはボーカルのディレイが印象的で、おもしろい奥行きのあるサウンドだなと思って聴かせてもらいましたが、競さんとしてはどんな印象がありますか?

競 紀行
“遊ぶ”という言い方をしていいかどうか分からないですけれども、この曲は意外と“遊ぶ”隙間がなくて。リミックスするにあたっては、せっかくなんで(オリジナルとは)違うテイクを持ってきて、それと合わせて…ということもやりたかったんですけど、「WET DREAM」にはその余裕がなかったので、すでにある素材を使って、オリジナルよりもスピード感を増したミックスがいいと思って、それを表現してみました。なので、僕なりの解釈で処理した結果、いろんなものが良く聴こえるようになっているんだとは思いますし、その意味ではリミックスとして成功したのかなとはいう風には感じてます。僕もこの曲は好きです。

シンセも結構、入ってますかね? 隙間がないというのは素人でも感じるところではあります。

競 紀行
シンセは入ってなかった…かな? 

とすると、あのデジタルっぽい音はギターですか? 

競 紀行
ギターですね。特にイントロで鳴っているのはオリジナルよりは今回かなり出して、ヘヴィにしてあります。これ、ギターがものすごくいっぱいあったんですよ。ギターが壁みたいになっていたんで、そこを頑張って、上手いこと出してあげましたね。

ギターに関して言えば、これは「WET DREAM」に限った話ではないですけど、2本のギターのコントラストがはっきりとした印象がありますよね。

競 紀行
そうですね。TAKUROさんとHISASHIさんのギターは当時からわりとはっきりと特徴を出していて、使うアンプも違うし、プレイスタイルも当然違うんで、キャラが分かれているんですけど、一聴して「これはHISASHI、これはTAKURO」と認識できるようなことは意識してミックスしましたね。

次の3曲目「嫉妬」もギターの音がパキッとしていますよね。ギターバンドならではのサウンドといった印象があります。

競 紀行
はい。私がこの曲にこだわったのはサビのギターで、オリジナルではほとんど聴こえていなかったんですよ。今回のリミックス作業をしていく中で、改めてサビのギターがものすごくカッコいいと思いまして、そこを大フィーチャーしたんです。実はよく聴くと歌メロとあんまり相性が良くなくて、歌と(ギターとが)喧嘩する部分があって、だから、おそらく当時は(ギターの音量を)下げたんじゃないかと思うんですけど、カッコいいから今回はあえて──あそこはHISASHIさんのギターのサンプリング音だと思うんですけど、出してみました。

なるほど。アルペジオ、ストロークとギターがいろんな表情を見せる楽曲ですよね。あと、ダンサブルなリズムもおもしろく感じます。

競 紀行
そうですね。これが初めてではなかったんでしょうけど、(『ONE LOVE』では)この曲だけドラムが打ち込みなんですね。草間敬さんがマニュピレーターをやられていて、当時、自分もそこにエンジニアとして立ち会ったんですけど、わりと実験的なことで、当時からその打ち込みのドラムとサンプリングのギターの絡みがすごくカッコいいと思っていたんですよ。でも、いざ出来上がってみたら、当初の印象からはオリジナルのミックスは全然違うものになっていたので、それを今回、改めて掘り下げてみました。

「嫉妬」は『ONE LOVE Anthology』の中では競さんの推し曲と言えるでしょうか。続いて4曲目「HIGHWAY No.5」に行きます。これ、基本はシンプルなR&Rだと思うんですけど、アレンジやミックスによって単純なそれにしてないように感じましたね。

競 紀行
はい。オリジナルのミックスがまさにストレートなロックだったので、“HIGHWAY”というくらいなので、もうちょっとスピード感がほしいなと思いまして、そこは意識しましたね。あとはサビで車が走り抜けていくような音があるんですけど、あそこはサンプリングし直して音を変えてみたんです。よく聴いていただけるとその違いが分かるんではないかと思います(笑)。

あ、そうでしたか。オリジナルとの音を変えていることは分からなかったですけど、あそこの車の音は随分と印象に残ると思って聴いてましたよ。

競 紀行
そうなんですよ。オリジナルの方は意外とあっさりだったんです。なので、もうちょっと出してもいいかなって(笑)。

“HIGHWAY”っぽさを増加させたわけですね(笑)。で、5曲目は「Fighting Spirit」です。

競 紀行
これは……正直に言いますと、リミックスにあたって一番苦労したんですね。何に苦労したかと言うと、GLAY王道のドストレートなミディアムのロックなので遊ぶ要素がない(苦笑)。歌と楽曲が持っている良さを出すためにバランスを見直して、音の分離を意識したんですけれども、それを一度メンバーさんに投げたあとに「ここをもうちょっと…」というリクエストがありまして。最初に自分がミックスしたのはもうちょっと大人しい印象だったんですけど、意外にもTAKUROさんからは「(BOØWYの)「B・BLUE」ばりに派手にしてくれ」と言われまして。ドラムにはゲートリバーブみたいなのをかけてわざとああいうテイストにしています。

この「Fighting Spirit」は、メロディはGLAYのもうひとつの王道である一方、サウンドは結構複雑で、その合わさった感じがおもしろいと思っていたんですけど、そこにはTAKUROさんのリクエストがあったんですね。

競 紀行
音に関してはそうですね。

2番から入ってくるギターが妙にノイジーだったり。

競 紀行
あそこはHISASHIさんですね(笑)。

60年代を感じさせる音もあったりと、いろんな表情のギターが聴けるのもおもしろいところだと思いますね。次に6曲目「ひとひらの自由」。レゲエナンバーで、コーラスに本場のシンガーを起用しているところは大きなポイントではないかと思います。

競 紀行
ゴスペルシンガーですね。私がオリジナルを聴き直した感じでは(そこが)あんまり出てなかったんで、リミックスの方ではガッツリとフィーチャーしています。この曲に関しては(オリジナルから)大きく印象を変えたくなかったんですよ。オリジナルには“Johnny the peace mix”というネーミングが付いてましたが、わりとあっさりというか、ドライなおとなしめのミックスだったんで、せっかくゴスペルの人がいるので教会で一緒にやっているみたいな雰囲気で、一体感のあるようなところを目指しましたね。なので、大きく印象は違わないようにはなっているんですけど、よく聴くと、いろんな音が出て来ると思います。

私、オリジナルとしっかり聴き比べたわけではないですけど、今回のバージョンを聴いて「GLAYの楽曲に、こんなにブラックミュージックの要素がある楽曲はあったけ?」と思ったんですが、ゴスペル要素が前に出ているからそう感じたのかもしれませんね。

競 紀行
それもありますし、(レゲエの)曲調にもより注目して形にした結果、そういう印象をお持ちになったのかなと思いますね。

個人的に興味深く感じたのは、アウトロ近くでドラムレスになる箇所がありますよね? あそこではTERUさんの歌に並走してJIROさんのベースが重なります。ボーカリストの作品であれば、あそこにベースは入れず、当たり前のように歌だけにすると思うんですけど、そうなってないのは、バンドならではのことなんだろうなと想像しました。

競 紀行
そうですね。バンドっぽさですね。あとは佐久間さんのプロデュースの妙というか、アレンジ力もあるでしょうね。

なるほど。7曲目「THINK ABOUT MY DAUGHTER」。タイトルからテンポが想像出来ないアップテンポのナンバーです。

競 紀行
これは今回リミックスしている時にキューシートを見て気付いたんですけど、このミックスの完成日が2001年9月10日だったんですね。初めて気付いたんですけど、そういう時期に出来た楽曲だったんだということは言っておきたいと思います。楽曲に関しては、これこそ最近のライブでよく演奏されているので、あんまり印象を変えたくないと。しかも、より遊ぶ余地もなかったんで、スピード感重視で、オリジナルではあまり聴こえなかったコーラスをフィーチャーしつつ、再構築しました。

最近ライブでよく演奏しているので、その雰囲気を損ないたくなかったという感じでしょうか。

競 紀行
というか、ライブでやっているプレイとオリジナルの音源はあまり変わらないんです。なので、下手に違うテイクを持ってきたりすることは出来ないというところですね。

そうでしたか。ライブで聴くと言えば、次の8曲目「VIVA VIVA VIVA」もたまにライブで聴いて「おもしろい曲だなぁ」とは個人的に思ってましたけど(笑)──。

競 紀行
そうですね(笑)。僕、この曲は結構、好きなんですよ。わりと激しめなロックで、「これで遊んだらどうなる?」という解釈なんですけど、ミックスに関して言えば、これも「何でこんなにたくさん入ってるんだ?」ってあり得ないくらいギターが入ってたんですね。それを整理し直して、新解釈で僕がエディットというか、「ここは使って、ここも使って」というギターの並び替えをしました。あと、この曲だけ、昨年の12月のさいたまスーパーアリーナ(=『GLAY DEMOCRACY 25TH "HOTEL GLAY GRAND FINALE" in SAITAMA SUPER ARENA』)のライブで演奏したテイクを貼り付けてます。

あ、そうなんですか!?

競 紀行
それはTAKUROさんからのリクエストで。特にサビなんですけど、この曲だけ、2020年、2021年のテイストが入っています。

個人的な感想では、サビに向かって徐々にサウンドがまとまっていくおもしろさがあると思って。ギターだけを追っていくと、「これはどこへ行くんだろう?」という感じなんですけど、ちゃんとサビへ辿り着くと。あと、間奏は初めて聴いたら「これは今どこを弾いているのか?」と思うようなところもあって、素人考えでは「こういうのは録る人も大変なのではないか」と思ったところではあります。

競 紀行
ああ、そうですね(笑)。ギターの本数が多いので、「このパートは誰を活かせばいいのか?」みたいなところはあったと思います。……そうそう、思い出しました。この曲はソロパートが2カ所あって、後半がHISASHIさんで前半がTAKUROさんなんですけど、TAKUROさんのソロだけ(オリジナルとは)別テイクを使いました。

当時、使わなかったテイクを今回、使ったわけですか?

競 紀行
はい。全部で3テイクあって、オリジナルではテイク1が使われているんですけど、今回のリミックスではテイク2を使いました。

それはまたどうしてだったでしょうか?

競 紀行
「別テイクもあるんだ?」と分かって聴き比べてみたら、「僕的にはテイク2が好きなんだけどなぁ」という(笑)。

今回の「VIVA VIVA VIVA」前半のギターソロは聴き比べポイントだというわけですね。続きまして9曲目「Prize」。ブラストのリズムで入るパンクチューンで、バンドサウンドは比較的シンプルだと思うんですが──。

競 紀行
そうなんです。シンプルなので、これも遊び要素がなかったんです(笑)。ですので、バランスとスピード感と音色を丁寧にやり直して再構築したという。

あれはサンドバッグですかね。2番のサビ前で何か叩くような音を入れていますよね?

競 紀行
あ、あそこは強調しました(笑)。オリジナルでは(演奏が)そのまま流れていったんですけど、今回は演奏をバッツリ切ってSEを強調しました。そうですね。そこだけはちょっと遊びましたね(笑)。

10曲目は「MERMAID」に行きましょう。

競 紀行
「MERMAID」だけ、『ONE LOVE』のレコーディングの流れではなくて、その前の年に録ってるんですよ。

「MERMAID」は2000年のシングルですね。

競 紀行
この曲だけ、エンジニアがMichael Zimmerlingなんです。Michaelのミックスがこれまた非常に良く出来てまして(笑)。Michaelに敬意を表して…というわけではないんですけど、ギターにしても何にしてもアレンジが完璧に仕上がっていて、すべてが完璧に整っているので、あえて崩したくなかったので、「改めて私が丁寧にミックスさせていただきました」という感じですね(笑)。

そう言われてみれば、シンセ、ストリングスが出て来る順番とか、そのボリュームとかが絶妙な印象はあって、素人から見ても崩しづらいんだろうなという感じはしますね。それでは、11曲目「mister popcorn」。これもR&RはR&Rなんでしょうけど、ちょっとおもしろいサウンドになっていますよね。

競 紀行
これはわりと遊べる要素があったので、オリジナルがバンドサウンドであったのに対して、僕はかなり遊ばせていただきました。サビ前、Aメロとかでは──これは生ドラムなんですけど、あえてゲートをかけて打ち込みっぽくして、サビでバンドに戻る…みたいなテイストで仕上げてみました。なので、この曲はオリジナルとは違った雰囲気を楽しんでいただけるのではないかと(笑)。

後半がかなりごちゃっとして行きますよね?

競 紀行
カオスですね(笑)。当時の時代性もあったんでしょうね。「VIVA VIVA VIVA」もそうでしたけど、カオスっぽい雰囲気──1999年から2000年に変わっていく時代の中で、「何か皆おかしかったんじゃないかな?」という雰囲気は(笑)、ここに込められてますね。

1999年から2000年にかけてって音楽業界全体が沸き立っていた頃じゃないですか?

競 紀行
すごく沸き立ってましたもんね。浮かれてたんですよ。…まぁ、その言い方もどうなのかと思いますけど(苦笑)、実験的なことも含めて、ミュージシャンの人たちは遊び要素を作品に閉じ込めることが自由に出来た時代だったのかなと思いますね。

なるほど。次は12曲目「電気イルカ奇妙ナ嗜好」です。これは元々かなりカラフルな楽曲という印象ですね。

競 紀行
HISASHIさんの楽曲ですね? そうですよね(笑)。オリジナルこそ遊んでいて、ドラムが左に居たりとか、そういう感じだったので、僕も違う遊びをしてみようかと。これもドラムはガッツリと打ち込み加工にして、サビとのダイナミクスの違いを出してみました。あと、ひとつおもしろいエピソードがあって、僕のメモによると、間奏前後にちょっと変わったコーラスワークがあって、そこに変な声が入ってるんです。気付きましたかね? 今回、思い出したんですけど、あれはTERUさんのコーラスで、当時コーラスを録ってる時、「ここは思い切り変にしたい」って、その頃に流行っていたヘリウムガスを吸って歌っていたんです(笑)。皆で爆笑しながら聴いてましたね。

そうですか(笑)。当時は、メンバーはもちろんのこと、競さんたち、レコーディングスタッフもすごく忙しかったとは思いますが、そんな中でもユーモアであったり、遊び心であったりを忘れていなかったという、それが分かるエピソードですね。

競 紀行
そうですね。メンバーもすごく忙しい中でレコーディングしていたんで、疲弊はしていたと思うんです。ただ、それでも遊び心を忘れないというのは、GLAYのメンバーの一番いいところではありますよね。お互いに冗談を言い合って、常に笑いが絶えないという、楽しいレコーディングでしたよね。

「電気イルカ奇妙ナ嗜好」はそうした当時のレコーディングの空気感もうかがえるナンバーなのでしょうね。13曲目「STAY TUNED」は、曲の頭とお尻にラジオDJ風のボイスが入っていて、その雑多な感じは、アルバム『ONE LOVE』を象徴している楽曲と言えるでしょうか。

競 紀行
仰る通り、アルバムを象徴するというか、この時代のテーマソング的な意味合いもあるのかなと。これもアレンジが素晴らしく良く出来てまして、リミックスするにあたり、崩せないと(苦笑)。(オリジナルの)ミックスも非常に良く出来ていたので、Johnに対する敬意を含めて、バランスとスピード感に注意しながらリミックスしましたね。

「STAY TUNED」について個人的に感じたのは、アコギとかシェイカーとかの生音がパキッとクリアに聴こえることで。サウンドが雑多ですから生音は埋もれがちだと想像するんですけど、そうではないところがすごく印象的でした。

競 紀行
埋もれがちなんですけど、バランスを重視していく上で、それらは必要な要素ではあったんで、そこは大事にしました。シェイカーはスピード感が出ますしね。

14曲目「君が見つめた海」。これはいい曲ですね。

競 紀行
いい曲ですよね。ただ、わりとオリジナルはあっさりとしていたというか、そこも当時の時代性だったんですかね? このアルバムは(全体的に)ウエットなサウンドではなく、かなりドライめな処理が目立つんですけれども、今となっては「もうちょっとウエットでもいいのかな」というところで、サビでのアコギのアルペジオとコーラスをかなりフィーチャーして潮風的な雰囲気にしていますので、そこを聴いていただけたらと思いますね。

わりとギターの音が厚めなのかなという印象も受けましたが。

競 紀行
あ、そうですか? でも、この曲の演奏はシンプルですよ。そう感じたとすれば、僕の音の処理に関係しているのかも。ギターの音を少し太くしたところはあったかもしれませんね。

了解です。15曲目は「夢遊病」なんですけど、個人的には今回で一番おもしろく聴かせてもらったのはこの楽曲ですね。オリジナルを聴いた時はそのサウンドからそれほど「夢遊病」な印象を受けなかったんですけど、今回は完全に「夢遊病」になっていると思います(笑)。

競 紀行
ありがとうございます(笑)。僕も「夢遊病」であることは意識しました。

サイケデリックロックですよね?

競 紀行
そうです、そうです。そこら辺は意識しました。サビでHISASHIさんが弾いているフレーズとストリングスとの絡みがすごく秀逸で、そこを強調してみたんですけど、そこら辺でサイケデリックを感じられるのかなと思います。

プログレの匂いもしますね。

競 紀行
はい。この曲をリミックスしていて気付いたのは、この大分あとで「BEAUTIFUL DREAMER」という曲があって、そこでも象徴的なのはストリングスとHISASHIさんのギターのメロディとの絡みはあるんですけど、「夢遊病」にはその片鱗があって、「この頃から意識していたのかな」ってところは感じました。

ロックバンドに合ったストリングスと言いますか。

競 紀行
はい。ストリングスに絡むギター。そこが(「夢遊病」と「BEAUTIFUL DREAMER」とは)似てるんで、上手く絡ませたいというところもあったんでしょうね。

あと、「夢遊病」には、紫雨林のイ・ソンギュさんのギターとキム・ユナさんのコーラスが入っています。その辺は当然、意識されたでしょうね。

競 紀行
そうですね。無くしてはいけないし、「ちゃんと聴こえないと…」というところでは意識しました。実は彼女の声のことがまったく記憶になくて──当時のキューシートを見たら僕が録ってるんですけど、20年前なんで記憶が欠落してて(苦笑)。でも、曲の中では大事な要素なんですよね。

そうですよね。彼女の幻想的な声はサイケやプログレ要素に合っていて、このコーラスは重要だと思います。

競 紀行
あそこは韓国語で(「夢遊病」の)歌詞に絡んでいるんですよ。

あ、そうでしたか。それを聞くと、ますますコーラスが重要なファクターであることが分かりますね。16曲目「Christmas Ring」。これもいいサビメロを持つ曲ですね。

競 紀行
いい曲ですよね。これもオリジナルはドライであっさりしていたので、世界観を広げるためにウエットにしてバランスを重視してみました。トラックを見て気付いたんですけど、このピアノはTAKUROさんなんですよね。ドラムと一緒に録ったテイクなんです。同録というヤツですね。

スローテンポだからなのか、ドラムを入れて5人の音の絡み合う様子がよく分かる楽曲だと思います。

競 紀行
それもあると思いますし、演奏も意外とシンプルなので、(それぞれの音が)よく聴こえるのではないかと思います。

17曲目「GLOBAL COMMUNICATION」。これも「STAY TUNED」と並んで、2001年の時代性を感じることが出来るナンバーですね。

競 紀行
そうですね。これはJohn Smithというエンジニアにお願いして、彼が日本に来て最初にミックスした楽曲なんです。で、そのミックスを聴いた時、メンバーも僕も全員がぶっ飛んだという(笑)。「すげぇな!」って。『ONE LOVE』というアルバムを作るにあたり、これを一発目に持って来たというところで、自分にとっても非常に思い出深い曲だったので、これもまた敬意を表して丁寧にミックスしました。

なるほど。「GLOBAL COMMUNICATION」がこういう仕上がりになって、アルバム『ONE LOVE』の制作が勢いの付いたところがあったんでしょうね。再三言うようですが、これもまたいろんな音が入ってミックスされているものの、じっくり聴くと根底をしっかりとバンドサウンドが支えていることがよく分かる印象ではありました。

競 紀行
はい。やっぱりバンドですからね。そこは一番、意識してミックスしているところですし、20年経って改めて聴いても「ああ、いい演奏だな」というのも感じてもらえればと思います。

分かりました。で、ラストが「ONE LOVE ~ALL STANDARD IS YOU reprise 2021~」ですけれども──。

競 紀行
これは私のミックスではなく、DJ HONDAさんです(笑)。オリジナルも確かHISASHIさんとDJ HONDAさんとで作っていたそうで、「今回もHONADAさんにお願いしよう」ということになったそうです。

これだけ随分と雰囲気が違うなと思ったところではありましたが、そういうことでしたか。さて、それでは最後に、リスナーに向けて競さんから一言いただけますでしょうか。

競 紀行
Anthologyシリーズを(オリジナルとは)違うエンジニアが手掛けるというのは今回初めてということで、僕自身、戸惑った部分もあるんですけど、20年前の若かった自分を思い出して(笑)、改めて気持ちを込めてミックスしました。20年経っての新解釈というところで、ファンの皆さんには違いを感じてもらいつつ、楽しんで聴いてもらえたら嬉しいですね。

文・帆苅智之

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